Second Life というバーチャルワールドを覚えているだろうか?2009年頃、日本でも一世を風靡した3次元バーチャルワールドだ。アバターと呼ばれる自分の分身を自由にカスタマイズし、仮想空間に土地を借り、家を建て、ユーザーとコミュニケーションを楽しむ。一気にユーザー数を増やしたこの仮想空間サービスは、アバターの後ろにリアルなユーザーが存在し、企業にとってはホームページをもつ感覚と同じで、仮想世界に店舗を構え、新製品のキャンペーンを展開したのだ。電通が統括したバーチャル東京やベンチャー企業が運営する山手線を模したMagSL東京などポータルとなる場所に、多くの企業が出店を急ぎ、その企画や制作を私自身もお手伝いさせていただいた。しかしブームは1年たらずで去っていった。当時ブームが続かなかった理由を“PCやグラフィックボードの性能が追いつけばもっと普及したのに”“使い方が素人には難しい”“リアルすぎて恐怖の谷を越えられない”というような分析をしていた。現在もSecond Lifeは固定ユーザーを抱え運営されおり、私も好きなミュージシャンのライブの時にはログインしてお気に入りのジャズバーにアバターとして訪れ、楽しんでいる。
さて、昨今話題のVR。製品版の「Oculus Rift(オキュラス・リフト)」の販売価格が米国では599ドルもする。それにこれだけ買っても何もできない。PCや専用ソフトなどに投資が必要で、気軽に手を出せるものではない。一方、ソニーのプレイステーションVRの展開はゲーム機ベースであることや、ソフトウェアの製造、販売体制がみえており想像はつきやすい。オキュラスが開発キットよりも高い価格で製品版をリリースする背景には、絶対的にユーザーを虜にするクオリティが必要と判断したからだろう。Second Lifeのブームが去ったときに“PCの性能が追いつかなかった”と原因を振り返った人たちが、このVRブームをどうみるだろうか? 高い価格と複雑な仕組みでしか実現できないクオリティでは、過去の失敗を繰り返す気がしてならない。ヘッドマウントディスプレイが、テレビのような家庭用ヒット商品になることはないだろう。しかし今回は、予想もしない適用例や圧倒的にプロセスを変えるコンテンツが登場し、過去のトラウマを超えさせてくれるのかもしれない。非常に楽しみだ。
事業構想大学院大学 特任教授 渡邊信彦
略歴
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)

1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。