中明知也代表取締役は、「職業プログラマ」に限界を感じてMinatoを2014年10月に起業した。ここでいう「職業プログラマ」とは、プログラムを書くことに特化した人材像で、中明代表取締役自身もいくつものプロジェクトを渡り歩いてきた職業プログラマのひとりであった。開発専門では、ユーザー企業の経営やビジネス上の課題を十分に解決できず、結果的にそうした課題解決を得意とするベンダーの下請けに甘んじざるを得ない。Minatoの起業後はこの負の連鎖を断ち切ることに成功している。
Company Data会社名 Minato
所在地 東京都中央区
資本金 300万円
創業 2014年10月20日
社員数 8人
事業概要 Minatoはスマートデバイス向けアプリ開発を軸とした課題解決型の提案力と技術力を強みとしている。社名の由来は、広く海外に門戸を開き、ヒト・モノ・カネが行き交う「港」。将来的には国際色豊かなビジネスを目指していく方針だ。
URL:https://minato.jp.net/ 商談規模は300万~1000万円に照準

中明知也
代表取締役 Minatoは、「職業プログラマのままでは、キャリアパスは描きにくい」という中明代表取締役の危機意識から始まっている。しかし、有志らと起業したてのスタートアップに、そうそう大きな案件が転がり込んでくることはない。そこで、スマートデバイス系のアプリを活用したユーザーの課題解決に、まずはターゲットを絞る戦略に出る。
端的にいえば、スマートフォンアプリはニーズが多い割には、商談規模が大きくなく、「大手SIerがやれば採算に合いにくく、スタートアップ企業が活躍する余地が大きい」ことから、まずはスマートフォンアプリに強いMinatoを打ち出すことにした。商談規模は300万~1000万円をターゲットにしたところ、大手が参入しづらい価格帯であることも手伝って順調に受注を伸ばすことになる。
スマートフォンアプリは、ユーザー企業との試行錯誤、二人三脚で開発することが多く、ユーザーに近いところにいる地の利も生かせる。ユーザーの課題解決から距離のある「職業プログラマ」集団のままでは、そもそもプログラム開発に長けた人材確保が国内では難しさを増すばかり。今後はベトナムやフィリピン、インドなど成長国で、プログラム開発に特化した優秀な人材に代替されていく割合がより増えることも予想される。
プロジェクトを渡り歩く下積み時代
早くから「職業プログラマ」に限界をみた中明代表取締役は、キャリアを形成する過程で、プロジェクトを遂行するノウハウを身につけられるよう意識してきた。ソーシャルゲームから業務アプリケーションまで、複数のソフト開発ベンダーを渡り歩きながらプロジェクトを経験。入社するときに「自分からプロジェクトに参加し、経験を積ませてほしい」と頼み込み、成果が出るようになると転職して別の分野のプロジェクトに参加した。気がついたら、特定の会社に属さない“個人事業主”としてプロジェクトに参加できるまでに成長していた。
「会社に所属させてもらうときは、キャリアを積みたいことと、プロジェクトで結果を出したら職場を移ることをちゃんと先方に伝え、退社するときは円満退社を常に心がけた」と話す。2002年に大学を卒業した後、2014年に起業するまで、さまざまなソフト開発ベンダーの助力を得ながら多種多様なプロジェクトでキャリアを形づくってきた。途中、個人事業主として独立した後も、以前のプロジェクトで築いた信頼や人脈から仕事が回ってくることも少なくなく、キャリアだけでなく人脈も手に入れている。
契約書の不備で辛酸をなめる
Minatoを起業する直前の個人事業主時代に、一度、大きな失敗を経験している。ある大手ユーザー企業から受注し、ユーザーと二人三脚でプロジェクトを完遂したまではよかったが、その後、契約書の不備を指摘され、あわや売掛金を回収できない事態に直面。さらに厄介だったのは、プロジェクトそのものはユーザーと共同で進めたが、契約は書類上の元請けの下に位置していたこと。エンドユーザーはすでに代金を支払ったというのに、元請けで止まっていた。以来、とくに大手ユーザーとの契約では慎重にも慎重を重ね、元請けに一層こだわるようになる。
直近では朝日新聞社と共同で新聞記事を読み上げるスマートフォンアプリ「アルキキ」を開発した。歩いているときや満員電車のなかでも記事を読み上げてくれる便利ツール。スマートフォンの画面を見なくて済み、「歩きスマホ」の問題も解消できるすぐれものだ。中明代表取締役は「事業部門と商談がまとまって、購買部門とのスムーズに契約できるのも、過去の苦い失敗が生きている」と話す。
顧客の課題を解決できる力が評価されて初めて、大手ユーザーとの直接契約が可能になる。「職業プログラマ」のままなら元請けになれる確率は低く、下請けに甘んじていれば、ユーザーと連名での導入事例の発表すらもままならない。今は元請けメインで手がけているため手がけたプロジェクトはできる限り公表し、「Minatoはどんな分野に強く、どんな実績があるのかを広く知ってもらえる」よう努める。こうすることでよいウワサを聞きつけた別のユーザーからの受注へとつなげている。