友人が興奮気味にメッセージを送ってきた。「今年度の補正予算について、もう知っていると思うけど」と。「まったく知らない」「えぇ~!」という感じのやり取りがしばらく続く。要は、政府が今年度の補正予算でシェアリングエコノミーとインダストリ4.0に100億円を用意するという。真偽のほどはわからないが、ひとまず「インダストリ4.0はともかく、シェアリングエコノミーに税金なんてありえないよ」と伝えておいた。関係者には怒られそうだが、すでにグローバル企業が乱立する分野に税金を投入するのはいかがなものかと思うのである。
シェアリングエコノミーとは、主に個人が保有する遊休資産の貸出しをインターネット経由で仲介するサービスを指す。配車サービスのUberや民泊サービスのAirbnbが、代表的である。Uberがタクシー業界の破壊者であり、Airbnbがホテル業界の破壊者として世界的にもてはやされた。
政府が税金を投入するという話が出てくるのは、「なぜ、日本ではUberのような企業が生まれないのか」という声があるからだろうが、法的規制がある以上、まじめな日本企業は取り組まないだけの話。規制すれすれのビジネスで金もうけをしようものなら、確実に逮捕されてしまう。その意味では、政府が税金を投入することで、事実上は法的規制が撤廃されると解釈できるのかもしれないが。
シェアリングエコノミーは、業界の境界を曖昧にしたとされる。例えば、Uberはタクシー業界とIT業界との境界を曖昧にしたというわけだ。残念ながら、それは間違いだ。Uberはタクシー会社の変化形に過ぎず、ITを活用しているものの、ユーザーであってIT業界の会社ではない。シェアリングエコノミーのベンチャーが日本で起きない理由をITベンダーに問う声もあるが、お門違いもいいところである。ITベンダーは、シェアリングエコノミーのベンチャー企業が増えることで仕事が増え、儲かるという立場である。その意味では、シェアリングエコノミーへの税金投入は使い道としては疑問だが、IT業界にはありがたい。
ちなみに、Uberは6月1日にサウジアラビアの政府系ファンドから35億ドル(約3800億円)の出資を受けたと発表した。自動車を保有しないことを強みとするビジネスモデルのはずが、Uberは自動運転車を開発している。政府は冷静に判断するべきだ。
『週刊BCN』編集長 畔上文昭
略歴
畔上 文昭(あぜがみ ふみあき)

1967年9月生まれ。金融系システムエンジニアを約7年務めて、出版業界に。月刊ITセレクト(中央公論新社発行)、月刊e・Gov(IDGジャパン発行)、月刊CIO Magazine(IDGジャパン発行)の編集長を歴任。2015年2月より現職。著書に「電子自治体の○と×」(技報堂出版)。趣味はマラソン。自己ベストは、3時間12分31秒(2014年12月)。