インシデント

　英語で「incident」と表記し、「出来事」や「事故」などと訳す。IT業界では、情報セキュリティを脅かす事件や事故を指して「セキュリティインシデント」ということがある。

　独立行政法人情報処理推進機構（IPA）は、ウイルスの感染や不正アクセス、情報記録媒体の紛失、パソコンなどの盗難をセキュリティインシデントの具体例として明示している。一方、セキュリティポリシー違反や情報セキュリティの弱点発見、メールの誤送信は、「情報セキュリティに関連するかもしれない状況」としてインシデントと区別している。

　米国立標準技術研究所が2008年に公表した勧告では、対応計画の策定や外部組織と連絡するためのガイドラインの作成、マスコミ対応などがインシデント対応の重要な部分と位置づけられている。インシデントが起きた後で対処するよりも、事前の予防が大切という。

　NPO法人日本ネットワークセキュリティ協会がまとめた「情報セキュリティインシデントに関する調査報告書」によると、16年は1510万6784人分の個人情報が漏えいし、損害賠償の総額は2994億2782万円に上った。漏えい原因で最も多かったのは、「管理ミス」（全体の34％）で、誤操作（15.6％）、不正アクセス（14.5％）と続いた。

　ちなみに、インシデントは、国際規格のISO22300や日本工業規格の用語となっており、「中断・阻害、損失、緊急事態又は危機になり得る又はそれらを引き起こし得る状況」と規定されている。

WannaCry

　「ワナクライ」と読み、日本語では「泣きたくなる」と訳される。2017年5月以降、世界中で大流行したランサムウェアを指す。被害の規模は「史上最悪」といわれている。

　WannaCryの感染例は、17年4月にトレンドマイクロが初めて確認した。本格的に感染が広がったのは5月12日からといわれている。Windowsのぜい弱性を利用してコンピュータに感染するのが特徴だ。

　感染すると、ファイルが暗号化され、解除する代わりに身代金をビットコインで支払うよう要求される。応じないと身代金額をつり上げられ、一定期間後にファイルが削除されてしまう。感染を拡散するワーム機能を備える。

　感染は少なくとも150か国で確認され、国家や企業のコンピュータも含めて被害数は数十万件以上に及んだ。日本では、日立製作所やJR東日本、本田技研工業などが被害に遭った。

　独立行政法人情報処理推進機構（IPA）は、WannaCryに感染した場合のデモ動画を公開するなどして注意を呼びかけた。政府は、首相官邸危機管理センターに情報連絡室を設置して対応した。

　WannaCryの攻撃者が誰なのかは、現時点では明らかになっていない。ただ、使用されたプログラムの特徴から、北朝鮮の関与を指摘する意見が出ている。

　WannaCryの被害は、現在は沈静化している。しかし、亜種とみられるランサムウェアの被害が報告されているため、対策には万全を期すことが重要視されている。