知的労働を基礎とするIT業界は、働き方を見直すことによって、短時間で成果を上げることが可能である。ところが、納期が迫ると徹夜の作業が強いられるなど、理想と現実が乖離しがちで、IT業界で長らく続くエンジニア不足の要因の一つとなっている。そこで、働き方改革である。日本情報技術取引所(JIET)は、「働き方改革委員会」を発足。会員向けに働き方改革の啓発活動に取り組む。(取材・文/畔上文昭)
日本が抱える問題
働き方改革は、国策として推進されている。背景にあるのは、少子高齢化による人口減(就労者減)という日本の問題である。 世界最速で進むとされる高齢化社会。そして、出生率の減少。就労者の社会的負担は、この先どんどん大きくなっていく。無策では、国力は衰える一方となる。もう一つ、日本は先進国中、最も時間をかけて仕事をするという効率の悪さから、労働時間に対する付加価値が最も低い国との指摘もある。日本の国力を維持するためには、就労人口の急激な減少をなだらかにし、かつ出生率が上がるような取り組みが必要となる。
こうした国の事情に加え、IT業界では長時間労働が課題となることが多い。なかでもシステム開発の現場では、納期に間に合わせるために徹夜での作業が必要になることもある。長時間労働が続くと、エンジニアは疲弊し、体を壊してしまう。最悪の場合は離職するということになる。システム開発の効率を上げ、エンジニアが働きやすい環境にすることが、IT業界に求められているのである。
女性の社会復帰の受け皿に
働き方改革委員会
野木秀子
委員長
働き方改革の説明でよく用いられるのは、「人口ボーナス期」と「人口オーナス期」。人口ボーナス期とは、生産年齢人口比率が高く、人口構造が経済にプラスになる時期。日本の高度経済成長期が、最もこの時期にあてはまる。人口オーナス期とは、就労者よりも支えられる人のほうが多く、人口構造が経済の重荷になる時期。今後の日本の姿である。
就労者がより多くの人口を支えるには、まず効率を上げる必要がある。そして、より多彩な人材が社会で活躍できる環境の提供が必要になる。その多彩な人材において、対象の一つとなるのが、子育てでいったん仕事から離れた女性の復帰である。
あえて「女性」がテーマになるのは、人口ボーナス期は女性の活躍がなくても経済が発展できる構造にあったことから、多くの企業に受け入れるというムードができていないため。
「私が就職した頃は、男女雇用均等法がなく、結婚したら退職するというのが一般的だった。職場には優秀な女性がたくさんいるのに、活躍する場がなかった」と、働き方改革委員会の野木秀子委員長は自身の経験を振り返る。野木委員長は、活躍の場を求め、大手企業からシステム開発を担う会社に転職し、副社長として会社の東証一部上場に貢献するなど、子育てをしながら働く女性としての道を切り開いてきた。
働き方改革において、柱の一つとなる取り組みが、子育てでいったん離職した女性の就労サポートである。JIETが働き方改革委員会を発足するにあたって、野木委員長に舵取り役を託したのは、子育てと経営の両方の経験があるからだ。
「ビジネスの現場で活躍する女性の多くは、出産をあきらめるケースが多かった。これからは、出産を経験して、さらにビジネスの現場で活躍するための環境を提供することが、企業に求められる。そのためにどのような取り組みが必要となるのか。私の経験を生かし、取り組み方法を伝えていきたい」(野木委員長)
三年計画で働き方改革を推進
JIETの働き方改革委員会では、女性だけでなく、介護を抱えている人なども含め、さまざまな人材が就労するための取り組みを推進していく。
「1年目は啓発の時期。JIETの支部をまわり、経営者や若者を対象に、働き方改革の必要性を伝えていく。1年目の後半には、生産性の向上や労働時間の短縮をテーマに事例を研究。2年目以降に、事例紹介とモデルケースの実践に取り組む。3年目には成果を確認し、さらなる事例作成に注力していく予定」と野木委員長は今後の活動計画を説明する。
働き方改革委員会では、青年委員会と連携するなど、JIET内の各委員会を巻き込んだ活動も検討。さらには、他の団体と連携した啓発活動も推進していくことを考えている。