オープン技術を用いた統合型情報システムの設計・構築や重要性が増大しているサイバーセキュリティに関する仕事の内容は、広い領域に跨る知識だけではなく、実経験にもとづいた知見が必要なスキルとなる。さらに、産業分野によって異なる専門知識と経験が必要とされる。
大企業においては、40代後半から経営側人材に関する選抜プロセスが行われ、やる気をもって会社のために就業していた人材が、社内あるいは関連会社における、ある意味閑職へ異動させられるケースがある。シニア層、とくに役職定年の方とお話しをすると、意義ある仕事ができなくなっていて、今後は、世の中のためになる仕事をしたいと言われる方が少なくない。
企業に在籍時は、会社の利益を得るために独自技術を用いたり、顧客のロックインをするために調達要件をうまく強要するなどの経験や知見がある。もちろん、ベンダー組織におけるシステム・製品のオープン化やサイバーセキュリティ対策の徹底による顧客への正しい高品質製品・サービスの提供経験も豊富である。
このようなシニア人材は、以下の二つのミッションの実現に貢献いただけるのではないだろうか。
一つはベンダー側から、システム・サービスの購入側(自治体など)へ移ることで、「不適切なベンダーの行動」への適切な対応をしていただけることが期待される。二つめは、ベンダー組織における情報システムの設計・調達やサイバーセキュリティ対策の監査役・指導役、すなわち、ITシニアのスキルを、組織統治の観点、とくに、監査機能の拡充への展開。内部監査機能ポストや監査法人、外部監査人などの職種への展開である。
このような人材の育成においては、ITシニア人材は若年層人材よりも以下のような観点から優位性をもっていると考えられる。まず、幅広く実践的な経験と知見の習得・理解には多大な時間が必要であること。また、実践的なマネジメントは、経験により習得が進むということ。
サプライチェーンネットワークを実現するIndustry4.0やSociety5.0にあたっては、システムのオープン化とサイバーセキュリティ対策の充実が必須であるため、シニア人材の戦略的かつ積極的な活用の場の提供がわが国の国際競争力の強化に資することになる。
東京大学大学院情報理工学系研究科教授 江崎 浩
略歴

江崎 浩(えさき ひろし)
1963年生まれ、福岡県出身。1987年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。1998年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。