佳境に入ったfreeeの佐々木大輔さんとの対談。最終回の今回は、freeeの市場攻略のビジョンから人材採用まで、佐々木さんの経営者としての姿勢やスタンスにも緩く、鈍角に切り込んでみた。(取材・文/本多和幸 写真/大星直輝)
本多 freeeと競合するライバルの弥生は、個人事業主向けクラウド会計ソフトの市場はできてきたけれども、法人向けの市場はまだまだと言っています。佐々木さんとしては、法人向けでキャズム越えをしたという感じはあるんでしょうか?
佐々木 さまざまな調査結果があって、クラウド会計ソフトの利用率は10%弱とか言われることが多いですが、その意味ではまだまだですね。ただ、部分的にはアーリーマジョリティーに入り始めたんじゃないかという感触はありますね。
本多 市場は順調に拡大していくと思いますか?
佐々木 新しい会社がしっかり成長して年月が経つと、世の中は変わっていきますよね。freeeは若い会社にはかなり強くて、そういう流れはつくれたのかなと思います。ここからの成長という意味では、ずっと別のシステムを使ってきたユーザーの業務アプリケーションをどう置き換えていくかが重要で、さらに知恵を絞らないといけないです。
本多 他社製品のリプレースが必要な段階になったわけですね。
佐々木 中堅企業向けの製品も出していますが、この市場も当然リプレースにはなりますよね。上場準備や事業承継なんかは基幹システム刷新の機会になりますから、そういうチャンスはものにしているというか、うちが強いパターンだと言えると思います。
本多 しかしこれだけ組織も大きくなると、初期の頃とは佐々木さん自身の日々の業務内容も違ってきていますよね。
佐々木 全然違いますね。最初はプログラム書いてましたから(笑)。
本多 東大卒で31歳までニートで、freeeの第1号社員になられた平栗(遵宜・執行役員COO)さんの話も有名ですけど、人材採用の基準も当時と若干は変わっているんでしょうか? 佐々木さんのビジョンへの共鳴度をどの程度重視するかみたいなことですが……。
佐々木 重視する度合いは上がっていますね。昔はこちらがそれほど意識しなくても、freeeのコンセプトっていいなと思ってる人しか入社してこなかったんですよ。小さい会社に入る不安よりもfreeeで働く価値を重視してくれた人というか。今のほうが組織は大きいし、知名度も昔よりは高い。相対的に安心して働けると思って入ってくる人は多いと思うんで、そこはむしろより気をつけないといけない点ですね。freeeのミッションやビジョンに対して、本当に納得した上で加わってもらうことを組織的に徹底しようとしているし、そこにコストを結構払っています。
あともう一つ大事なのは、経験が必ずしも重要ではないということです。平栗も、freeeに加わって、一からプログラミングを勉強して、ものすごく頑張ってプロダクトのローンチに貢献したんですね。だから、経験よりも新しいものを一緒につくれそうかが重要だと思ってます。採用面接でも、ちょっとしたことを議論してみたり、どういう考え方をする人なのかはかなりしつこく聞くので、変わった面接しますねとはよく言われます(笑)。
本多 新卒採用でも、freeeって人気ですよね。いろいろな人材をご覧になってきたと思うんですが、優秀な頭脳を持っていることと、freeeにフィットするかどうかって、相関関係があると思いますか?
佐々木 それは独立した軸で、相関関係はないと思いますね。というのは、freeeってすごくチームプレーを重視しているんですよ。自分に対する周囲からのフィードバックにオープンであることとか、自分自身のことをうまく共有できるかとか。チームとして働きやすい人なのかどうかはすごく重視しているので、そういった意味では頭がいいだけじゃダメですね。
上場も選択肢として
持てるようにしておきたい
本多 マネーフォワードが約1年前に上場しましたけど、freeeの上場についてはどう考えてますか?
佐々木 ベンチャーキャピタル(VC)が入っているので、いずれは彼らの株をどうするのか考えなきゃいけないというのはあります。ただ、なるべく長い期間未上場でいられるほうが、やっぱり事業には集中できるわけですよ。だから、なるべく未上場の期間を長くとって事業の成長にフォーカスしたいという方針でやっていて、それを現在も継続中ってところです。
本多 将来的に上場するとして、その直接的な理由というか、きっかけって何になるんでしょうね?
佐々木 一つは資金調達の選択肢という感じですかね。幸い日本でも未上場で大きなお金を集められるようになってきていますけれども、状況によっては上場したほうがお金を集めやすくなるので。
本多 事業の規模が大きくなるとか?
佐々木 売上規模もそうだし、株主の数が増えてくると未上場であることのコストも上がってくるんです。いずれにしても、上場か未上場か、どっちが自分たちにとっていいのか考えなきゃいけないタイミングにはきているので、上場もちゃんと選択肢として持てるようにしておこうとは思っています。