地方分散化が進み始めている。中央集権から分散化社会へ、この流れを捉え始めていることには期待を感じる。しかし、個別の施策には疑問を感じざるを得ないものもある。
クリエイターやデザイナーの誘致やコワーキングスペースの設置。必ずと言っていいほど出てくるキーワードである。一見新しい取り組みに映るが、これらはかつて駅前をミニ都会化させたテンプレ型地方創生策の現代版にほかならない。クリエーターが移住したらいいのか? コワーキングスペースを乱立したら起業家が増え地方の経済は活性化するのか? 本質をきちんと見つめた上で、個別に必要な施策を実践していかなければ結果は出ない。
最近、「地方×IT」のテーマで講演依頼が急増している。講演内容の要望をお聞きするとほとんどの場合、労働力不足対策、高齢化対策のインフラ整備、5G を見据えた地域インフラなど、効率化をITで実現するソリューション事例を話してほしいというものである。
一見するとIT化推進の好事例に思えるが、これらも同じく地方×IT化の定石であり、テンプレート化された答えが存在していることがほとんどである。効率化を求めることにより横並びをつくり、そこにはクリエイティビティは存在し得ない。クリエイティブな思考を持った町づくりをしたいと言いながら、それを否定することになっているのだ。また、グローバルに向けたビジネスの種が隠れていることも見えていない。
日本が置かれている状況は、高齢化先進国であり、グローバルに今後適用可能な技術開発を実証実験するケースが存在しているのである。小さな村の小さなソリューションをグローバルにみたとき、イノベーティブで一定のマーケットを獲得できるビジネスのタネが存在していることに気づいていない。これはとてももったいない。
例えば森林伐採の人材がいないために山が放置されているが、ここに必要なロボットテクノロジーを開発することは一拠点でみると小さな価値と見られ放置されがちだが、今後世界各地で起こる同様のニーズを見据えれば、マーケットを作りに行くことができるはずだ。
課題を先端技術で解決する。その技術が将来、グローバルに必要性を増し、マーケットが求めてくることが見えれば、日本のITにとっては大きなチャンスだ。
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
略歴

渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。