アクロホールディングス(小野賀津雄・代表取締役CEO)は、非常にユニークなグループ経営をしているSIerである。昨年度(2018年12月期)連結売上高は145億円で、中堅規模にもかかわらず、決算上の連結子会社は27社、過半数出資などで連結対象になり得る会社までを含めると36社の大所帯。これに持ち分法適用会社を加えると50社規模になる。それぞれのグループ会社の自主独立経営を尊重し、ITを軸とした多種多様なビジネスを展開。「緩やかな連合体」を組むことで、変化適応力と競争力を高めている。
Company Data
会社名 アクロホールディングス
所在地 東京都中央区
設立 2000年
従業員数 1100人(連結)
資本金 2億8650万円
事業概要 グループ会社は36社。北海道や九州など地方進出も積極的に推進。一部出資の持ち分法適用会社ではベトナム大手SIerの日本法人との合弁会社FPTアドバンスジャパンを設立するなど合弁事業にも取り組んでいる。
URL:https://www.acroholdings.com/
変化に強い連合体を重視
36社のグループ会社は、例えば営業機能に長けたアクロネット、技術に特化したネオテックス、上流工程や基盤構築に強いアクロスペイラ、CRM(顧客接点)やウェブ系開発に強いビジネス・リンク、北海道函館市に本社を置くアクロクレイン、宮崎県宮崎市に本社を置くグローバルテクノロジー宮崎などを擁する。
グループ会社の自主経営を尊重し、多様なビジネスを展開する発端となったのは、08年のリーマン・ショック。アクロホールディングスの小野CEOは、「事業環境が急変しても、多様性をもって適応できる組織体をつくる」ことで、再びリーマン級の経済危機に直面しても勝ち残れることを目指した。
小野賀津雄・代表取締役CEO(左)と須田誠・取締役
受注環境が悪化すると大手SIerでさえも経営が厳しくなり、その協力会社の中堅・中小SIerは外注費削減の煽りを受けるかたちで経営危機に直面しやすくなる。アクログループでは、それぞれの子会社が独自性を生かして、特定の顧客に依存せず、多様な受注先を開拓することで、変化に強いグループ組織を構築している。
企業ガバナンスは、受注や損益状況や不採算プロジェクトの有無の情報を随時アクロホールディングスに集約し、経営にインパクトを与えるような事態になる前に手を打てるようにしている。ただ、そうした事態にならない限り、グループ会社に自主独立の経営を認めていく方針である。
営業、技術の不一致を最小化
このグループ戦略のきっかけは景気変動に強い組織づくりだったが、営業や技術者のモチベーション向上、優秀な経営者の育成、従業員の離職率の低下などさまざまな副次的な効果を生んでいる。例えば、営業は売り上げや粗利を重視して注文を取りに行くのに対して、技術者は基本的に自分の興味のある分野やスキル向上につながるような開発に達成感や満足感を覚える。一つの会社の中で営業と技術が同居していると、方向性の不一致はどうしても生まれてしまう。
しかし、30社余りのグループを展開することで、営業が取ってきた仕事を快く、適切なコストで引き受けてくれる技術者を探しやすくなる。さらに、グループ外の技術者も積極的に活用していることから、グループ内の技術者は外部技術者との競争の中で、自分の興味が持てる仕事を選べる環境をつくりやすい。営業や技術の方向性の不一致を最小化することで離職率の低下につながる。結果的に「他のSIerに比べて外注費は高くなる」(小野CEO)が、普段から変動費の幅を多くとっておくことで「景気変動への耐性を高める効果が見込める」と前向きに捉える。
次代を担う経営者育成に注力
グループ会社は、地方にも展開中だ。函館や宮崎のほかに岡山や山形にも拠点を置く。アクロホールディングス取締役で、函館のアクロクレイン代表取締役を兼務する須田誠氏(函館市出身)は、「仕事と雇用を地元につくりだすことを重視している」と話す。グループ経営のネットワークを生かし、まずは首都圏からソフト開発や運用、BPOといった仕事を地方に持ち込んで雇用を生み出す。雇用創出は地元の自治体や教育機関からの評価につながりやすく、「地元で優秀な人材の採用もしやすくなる。地場顧客からの受注はその次のステップ」と位置付ける。
また、次のグループ展開を見据えた「ビジネスプランコンテスト」も開催している。当初はグループ内の起業志望者に向けたコンテストだったが、今はグループ内外に対象を広げて、次世代のグループ経営を担う経営者の発掘にも力を入れる。これまでもデジタル技術を生かした映像制作会社を社内有志によって設立し、経営的にも軌道に乗せるなど「ITやデジタルを軸としつつ、多様性を強みに変えて成長につなげていく」(小野CEO)と話す。