先日、あるSI事業者から、たくさんの書類が送られてきた。この書類に記入・捺印して送り返してくれとのことだった。理由はコンプライアンスの強化だという。

 コンプラインスを強化するならば、まずは自分たちの業務プロセスを見直し、問題が起きそうな箇所を排除するのが筋である。取引先に負担を強いるというのは、おかしな話だ。

 米国の法学者であるハーバード大学のレッシグ教授は、人のふるまいに影響を及ぼすものには、「法、規範、市場、アーキテクチャー」があると指摘している。

・法律:法律を定め、違反者に罰則を課すことで影響を与えること
・規範:社会的常識や世間の評価などで影響を与えること
・市場:製品の魅力や料金の高低、市場の評価などにより影響を与えること
・アーキテクチャー:暗黙の決まりごと、行動習慣で、影響を与えること

 レッシグ教授は、本人が意識することなく、自動的にふるまいを規制してしまうのがアーキテクチャーであること、また、その規制力を放置しておけば限りなく大きくなってしまい、行き過ぎると思考停止に陥り、無自覚に振る舞ってしまい、結果として自由が奪われてしまうことを指摘している。

 企業文化とはまさにこのアーキテクチャーだ。つまり、あるインプットがあれば、どのようにアウトプットをするかを意識することなくやってしまうことである。「書類や手続きを増やす」というのは、まさにこの企業文化、つまりアーキテクチャーの所作である。

 DXとはデジタルな時代にふさわしい企業文化への変革を意味する言葉だ。DXに取り組むのなら、まずは自分たちの企業文化が、時代遅れのアーキテクチャーに支配されてはいないかに目を向けるべきだろう。それをいまの時代にふさわしいカタチに作り直すことが最初である。それに取り組むことなく、「お客様のDXの実現に貢献する」ことなど、おこがましい話しだ。

 DXを、AIやIoTを使って新しいビジネスを立ち上げることだと考えている人たちが、いまだに少なからずいる。このような発想が出てくることもまた、現状を大きく変えることなく、何とかしたいと考えてしまう時代遅れなアーキテクチャーの所作であるのかも知れない。
 
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義

略歴

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
 1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。