日本が誇るSIer。これまではアベノミクスや東京五輪などの影響でユーザー企業の投資意欲が強く、人手不足が深刻になるほど多くのSI案件が動いていた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大による未曾有の経済危機の可能性も指摘される中、次の一手をどうするべきかを早急に考えなければならない状況となった。SIerのトップに改めて“SI論”を問う。
確たる強みがある自社商材を持ち、財務的にもさまざまなリスクに耐え られる強靭な体質にする。日本ソフト開発の蒲生仙治社長は、これを「小 規模大企業化」と呼び、経営方針の柱に掲げる。現在の成長を支える業種 特化型のクラウドサービスやIoTソリューション、ビッグデータ処理システ ムなどは生みの苦しみを経て日の目を見た。“SIerのビジネス変革”を口に するのは簡単だが、やり遂げるには経営者の覚悟が不可欠だという。(取材・文/本多和幸)
Company Data
会社名 日本ソフト開発
本社所在地 滋賀県米原市
設立 1972年2月
資本金 1億9000万円
事業概要 自社パッケージ商品の開発・販売、ソフトウェア設計・開発、コンピューター/ネットワークのSI事業、関連分野のサービス事業
URL: https://www.nihonsoft.co.jp/
自社製品・サービスの成長で増収増益
滋賀県の有力SIerである日本ソフト開発は創業以来のビジョンとして、特徴と明確な強みのある分野を持つ「強い会社」を目指してきた。昨年8月に就任した蒲生社長は、「多くのSIerがいまだにSESや受託開発を主軸にしているが、当社はそれをメインの事業にはしない。自分たちの商品、自分たちのサービスを世の中に届けて社会課題を解決するビジネスこそが強い会社をつくる」と話す。
日本ソフト開発 蒲生仙治 代表取締役社長
現在、同社の売上規模は約25億円。近年は増収増益基調で成長が続いている。「地元の商圏も大事なので、滋賀県内や近県のSI案件は重視している」(蒲生社長)ものの、成長を支えているのはやはり全国の市場に展開する自社製品・サービスだ。時間をかけて自社商材を伸ばし、現在では売り上げ全体の5割~6割程度を占めるまでになった。
同社の主力自社商材は三つ。中でも最も歴史があるのが、水処理施設を中心に導入が進む遠隔監視システム「SOFINET」だ。
京阪神の多くの住民の生活や産業を支える水源である琵琶湖の水質改善は高度経済成長期以来の継続的な課題だが、同社は1990年、滋賀県などが中心となって進めた水質浄化プロジェクトに参画。センサーと連動した水質、水位の監視や水処理プラントの稼働監視などのシステムを担当し、これをパッケージ化する形で全国の下水処理場、農業集落排水施設などに納入し始めた。
2010年頃からは、SOFINETをクラウドで提供する需要も大きくなった。これがSOFINETの成長を次の段階に進めた。蒲生社長は次のように説明する。「従来、プラントメーカーや水処理施設の施工会社、維持管理会社などが独自にこうした遠隔監視システムを持っているケースが多かった。しかし、クラウドが登場し、テクノロジーの進化のスピードも加速度的に速くなる中で、システム開発・販売のコストや採算性がユーザーの要求と合わなくなっていった。しかも、いったんユーザーが使い始めたら止められないビジネスでもある。それならば、専門のソフト会社と組んだほうがいいのではと判断する会社が増えた」
結果として、もともとは競合だったプラントメーカーや水処理施設の施工会社、維持管理会社は本業に専念し、遠隔監視システムについてはSOFINETのパートナーとして拡販を担ってくれるという構図が出来上がった。現在SOFINETは、全国で約6000プラントの監視を担うまでユーザーを拡大している。「M2MからIoTに連なる流れの中にある商材であり、持続可能な水インフラ施策に向けたデータ活用という側面でさらなる付加価値をもったソリューションに発展させられる可能性もある」(蒲生社長)と今後の成長に期待を寄せる。
変革には忍耐と覚悟が必要
このほか、保育業務を網羅的に支援する「キッズビュー」も2000園を超える導入実績がある。指導案や園だよりなどの作成から発達記録、出欠管理、行事計画、職員間連絡、名簿・名前シールの作成までをカバーするクラウドサービスで、直観的なUIも評価され、現場の業務効率向上に貢献しているという。さらに、ビッグデータ処理システムの「SOFIT Super REALISM」も2009年にリリースし、自社主力商材の一角を成している。
IoT、ビッグデータ、働き方改革……。キーワードを抜き出すと日本ソフト開発は時流に沿った自社商材を揃えて成長につなげたように見えるが、蒲生社長は「どれも簡単ではなかった」と振り返る。「自社商材はクラウド、そしてサブスクリプション型での提供が多いが、ここまでくるにはかなり時間もかかった。ストック型のビジネスにシフトすれば、いったん売り上げは必ず下がる。損益分岐点を超えるまである程度時間がかかることを見越した上で、経営者の忍耐と覚悟が必要であり、それを乗り越えてきた」。新型コロナウイルスの影響で個別のSI案件は先行き不透明だが、サブスクリプション型のサービスで提供する自社商材は十分に成長が可能だと見ている。
現在は自社商材にRPAツールを組み合わせた業務効率化の提案にも力を入れている。日本ソフト開発のように業種特化型で競争力のある業務アプリケーションを持つ他のSIerやメーカーなど約20社と協力し、業務アプリケーションとRPAを組み合わせた業種ごとのニーズに対応できる独自のアライアンスも立ち上げたという。この中で、ビジネスマッチングやRPAシナリオを作成できる人材の融通なども図っている。蒲生社長は「垂直統合型で考えるのではなく、エコシステムをより重視すべき事業環境になっている」とも強調する。