視点

一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕

2020/08/21 09:00

週刊BCN 2020年08月10日vol.1837掲載

 改正著作権法が6月の国会で成立した。改正点は多岐にわたるが、ソフトウェア業界に関係するものとして、ダウンロード違法化の対象となる著作物の範囲拡大と、著作物を利用することができる権利についての対抗制度の導入について紹介したい。

 ネット上の著作物をダウンロードすることは、私的使用目的の複製として、例外的に違法とはされていなかったが、2010年から映像と音楽に限り、違法にアップロードされたものと知りながらダウンロードすることが違法となっていた。12年からは刑事罰も付されるようになった。そして今回、より細かな条件が付いているが、プログラムを含むすべての著作物が対象となった。法定刑は2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはこれらの併科だ。

 一方、著作物を利用することができる権利についての対抗制度とは、例えば、A社が持っている著作物について、B社がそれを利用するライセンス契約を結んでいたとする。その後、A社が別のC社に著作権そのものを譲渡した場合にも、B社はA社とのライセンス契約に基づきC社に当該著作物の利用の継続を求めることができるようになるのだ。これまでは利用の継続を求めることはできず、C社とライセンス契約をあらためて取り交わす必要があった。

 この問題は、私が若い頃から指摘され続けていたが、ようやく結実したという感慨がある。そして、これは明治以来、社会のルールとして定着している所有権などの物権の扱いと同じように、著作権という知的財産についても、契約の仕組みを安定させようという動きなのだ。施行日は対抗制度の導入が20年10月1日、ダウンロード違法化の範囲拡大が21年1月1日だ。

 ここから、読者のみなさんのビジネスについても考えてほしい。契約に際し、同じ雛形を毎度用いているだけではないだろうか。特にライセンス契約といった著作権に基づく知的財産を扱うような場合、自社の権利が法律上、契約上どのように守られているか、意識してきただろうか。契約に際しては、法的な意味や価値を理解していないと、ビジネスの本質を見失うのではないかと私は危惧している。管理のしにくい「物」ではない「情報や知的財産」は、とりわけその価値が何に根ざしているのか、ぜひ改めて考えてほしい。
 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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