独SAPは100%子会社である米クアルトリクスの上場計画を発表した。SAPが2018年に80億ドル(約9000億円)の大枚をはたいて買収したオンラインアンケートツールベンダーだ。アンケート結果の分析を業務改善につなげるための機能を備えていることが市場に評価され、もともとユニコーン企業として大きな注目を集めていたが、上場予定日の3日前に急転直下でSAPによる買収が発表されるというドラマチックな展開だった。以来、SAPは“虎の子”扱いでその価値をことあるごとにアピールしてきた。

 今回、クアルトリクスは米国での新規株式公開(IPO)により上場する予定だが、「スピンオフや過半数株式の売却は予定していない」(SAP)とのことで、引き続きSAPの連結子会社ではあり続ける。それでも、SAPがこれまで買収してきたITベンダーの多くがSAPブランドのポートフォリオに統合・吸収されてきたことを考えれば、異例と言ってもよさそうだ。SAPの若きリーダー、クリスチャン・クラインCEOはこの上場計画について、「クアルトリクスの自律性が高まることで、新たなパートナーシップを結ぶことや、エクスペリエンス管理の総合的なエコシステムを構築することもできるようになる」という趣旨のコメントをしている。よりオープンなビジネスエコシステムを構築するアプローチこそが、これからの市場におけるプレゼンスを高めるためには有効だということか。市場の大きな変化を象徴する動きだという印象も受ける。

 そのクアルトリクスの日本法人が先頃、「働く日本人への意識調査」結果を発表した。調査対象となった男女500人の7割が、新型コロナ禍により一時的に在宅勤務を経験した後、現在はオフィスでの勤務に戻っているという。さらに、そのうちオフィス勤務に戻って快適に働いている人の割合は8%という結果になった。快適に働けないオフィスになぜ戻るのか。出社しないとクビになる心配がある、会社に評価されない、といった理由が並ぶ。回答者が所属する企業の経営者やリーダーの姿勢が透けて見える。

 日本だけでなく世界中が疲れてきている。課題に目をつぶって時計の針を無理やり戻したくなる気持ちも分からなくはないが、もう一度自分の頬を叩いて、覚悟を決める時ではないか。変化を受け入れ、冷静に状況を見極め、しぶとく生き延び、成長するためにやるべきことは何かを考えたい。
 
週刊BCN 編集長 本多 和幸
本多 和幸(ほんだ かずゆき)
 1979年6月生まれ。山形県酒田市出身。2003年、早稲田大学第一文学部文学科中国文学専修卒業。同年、水インフラの専門紙である水道産業新聞社に入社。中央官庁担当記者、産業界担当キャップなどを経て、13年、BCNに。業務アプリケーション領域を中心に担当。18年1月より現職。