日本企業はM&Aが苦手と言われてきたが、それはもはや昔の話で、今ではすっかり成長戦略の一つとなってきた。しかし戦略的にM&Aを行っている多くは大手企業で、中堅・中小で得意としている企業は多くない。それは、上場大手は市場を活用して売り買いがし易いという事情もあるが、それだけではない。うまく進めない中堅・中小企業特有の問題も存在する。

 これらの課題をなんなくクリアしたのがタキオニッシュホールディングス(本社静岡市、鈴木敏夫社長)である。その基本は海洋産業を軸とした「垂直統合型」のM&Aで、計画的、戦略的な経営手法はほかの中堅・中小企業や他の業種にも十分活用できるものである。

 同社のM&Aのスピードは驚くほど速い。2006年6月の海洋機器の輸入商社の日本海洋を皮切りに、20年8月には航海士や機関士などを育成して派遣する会社のサンエイ・マリンまで、16年間で実に8社のM&Aを成功させた。

 鈴木社長は「M&A戦略の最大の課題は社風を変えること」と語る。どこの会社でも長年積み重ね、染みついた風土がある。これを変えねば企業は再出発して成長はできないし、また理由があるから変えられない面もある。同社がM&Aを行ったある会社は、この社風を変えることに実に8年の歳月を要した。しかしながら良くしたもので、長年かけて社風を変えることができたら、今度は逆にそれまでの欠点であった長年染みついた風土が、岩盤として、ある面では生きてくる。そんな場面を何度も見てきた。

 ではどのようにして社風を変えることができたのか。これはとてつもない持久戦である。「お前たちはもう要らない。頼むから会社を辞めてくれ」では何も解決しない。毎月のように泊まり込みの研修を行う、ディスカッションをする、会社の仕組みやしきたりを一つ一つ改善する。M&Aとはこの目には見えない地味な努力の積み重ねこそが大切なのである。

 こうしてみると中堅企業のM&A戦略とは壮大な「人間ドラマ学」ともいえる。M&A戦略がうまく行かなかった事例を調べてみると、この人間ドラマ学で失敗していることが少なくない。「チャレンジ精神と明確なビジョンさえあれば、どの会社でもM&A戦略を成長戦略として活用できますよ」と、鈴木社長から中堅・中小企業に前向きな答えが返ってきた。

 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。2001年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。