視点

情報社会における人は「天然資源」

2022/05/18 09:00

週刊BCN 2022年05月16日vol.1922掲載

 新年度になり、私が教えている大学でも新しい授業が始まった。1年かけて一通りの知識を身につけてもらうよう努力するが、またイチから始まるのかと少し気が重い。

 企業で新入社員教育を担う方の中には同じ気持ちの方がいるかも知れない。昨今は、ITツールを使いこなすのにメールの書き方を知らない新入社員もいると聞く。われわれの世代が電話の取り方から教えられたように、同じように知っておくべき社会のあり方があるのだろう。

 さて、現代の情報化社会において「人は天然資源」という考え方がある。情報学の分野で語られる表現だが、情報化社会の前を大きく工業化社会とするなら、その時代は、石炭、石油、鉄鉱石といった天然資源を元に産業が進展した。工業化社会における天然資源が鉱物などであるなら、情報化社会における天然資源は、情報を生み出す人である、という意味だ。

 もちろん、ソフトウェア業界においては、人が資源だと産業の誕生当時から意識されていた。でも、それはソフトウェアを開発する上でコードを書きプログラムを生み出すのが人、という意味だったと思う。

 一方、情報学でいう場合に人が生み出すものは、もっと大きな概念だ。かつて鉱物資源から機械産業や化学産業が発展したように、人を起点に情報産業が進展し、デジタルトランスフォーメーション(DX)が企業のあり方や社会構造を変えていく。そういう意味だと私は解釈している。

 そのことを意識すると、今後、新入社員教育のあり方をはじめ、日常的な社員教育の位置付けが変わってくるのではないだろうか。こうしたことを踏まえ、先日、新潟県中小企業団体中央会で「著作権ビジネスの基本の基」というタイトルで講演をしてきたところだ。

 とはいえ、企業で働く以上、これまでの新入社員教育は必要だと思う。DXと言ったところで、ベースには基礎知識が必要だ。そのとき、天然資源たる人が生み出す情報の基本は、プログラム、ソフトウェア、アプリ、コンテンツなどの著作物であることを改めて強調しておきたい。そして、人が生み出す情報の価値や意味について学ぶなら、分かりやすい教材として、著作権がうってつけだ。新入社員教育にコンピュータソフトウェア著作権協会を活用してもらいたい。

 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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