視点

「To Earn」革命は新しい経済となるか

2022/06/22 09:00

週刊BCN 2022年06月20日vol.1927掲載

 「Play to Earn」という言葉を聞いたことがあるだろうか。ゲームをすることでお金を払うのではなく稼ぐことができるという仕組みだ。これまでと逆の仕組みが、ブロックチェーンゲームに多く見られるようになった。

 「Walk to Earn」(歩くことで報酬を得る)や「Visit to Earn」(訪れることで報酬を得る)、「Learn to Earn」(学ぶことで報酬を得る)など、「To Earn」にはさまざまな形が登場している。

 昨年に「STEPN」というサービスが登場し、歩くだけで稼げるとブームになった。参加するにはデジタルの靴を購入する必要があり、4月末には1足10万円以上だった。つまり10万円の初期投資がかかった。ところが仮想通貨の大暴落で6月には靴の値段は2万円程度に下がった。転売できる靴の価値が下がり、換金できる仮想通貨のレートも下がっているので損失を抱えた人もいるようだ。初期投資が参加者の報酬にまわる仕組みなので、詐欺の一種であるポンジスキームなのではないかと、警戒する人が多いのが現状だ。

 本来、これらの仕組みは恩恵を得る人が負担し、貢献した人が報酬を得る仕組みだ。例えば、歩くことで街が賑わいを生むことにより恩恵を得る人や、健康につながることによって削減される社会保障費を負担する国などが原資を支援することになれば、理想的な価値の転換になる。

 弊社はXRクリエイティブプラットフォームの「STYLY」を開発し運営している。このツールを使って多くの人がXR空間を作ってくれることが、企業価値を高めることになると考えている。だからツール利用料は無料、使い方教室も無料で開催して、世界中のクリエーターがXR構築を低コストで実現できるようにしている。弊社は大赤字だが、将来、学んだ人の数がマーケットシェアになり、XR制作のニーズが高まれば大きな収益を生むことができる。このため、今後はマスターしたことが証明され、ツールを使った創作活動が行われていれば報酬を支払うことも検討している。

 つまり、学ぶことで報酬を得られるのだ。これによってXR空間を作る人を高速で育成し、マーケットを広げることが可能になる。将来の価値を現在の活動原資にすることができるこれらの仕組みは、新しい経済と言っていいだろう。期待は大きいが、詐欺まがいのサービスも存在するため、普及を阻害しないことを切に願っている。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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