視点

クラウドの利用が進む裏で

2022/07/13 09:00

週刊BCN 2022年07月11日vol.1930掲載

 既に企業がクラウドサービスを利用するのは当たり前といえるが、一昔前は敬遠する動きがあった。2012年10月に日本経済団体連合会(経団連)の作業部会が発表した報告書は、企業や政府での利用促進を求めた一方、「一般的にデータをよそのサーバーに預けることに対する不安は根強く残っている」と指摘していた。

 直近の状況はどうか。総務省がまとめた21年版の「通信利用動向調査」によると、クラウドを導入している企業の割合は70.4%と引き続き増加した。利用の効果については、「非常に効果があった」と「ある程度効果があった」を合わせた割合は88.2%となった。

 情報が独り歩きして広がった「クラウドの都市伝説」を含めて、かつての不安はほぼ払しょくされたと言っていいだろう。特にコロナ禍では、テレワークの導入が広がり、クラウドの利用が拡大した。数年前から叫ばれている「2025年の崖」問題の解消に向けて、情報システムの基盤としてクラウドを選択する動きも増えている。

 クラウドの利用が進む裏で、市場の動向に目を光らせているのが公正取引委員会だ。クラウドベンダーを「多くの事業者の事業活動の基盤を提供する者として重要な存在となりつつある」と位置づけ、独占禁止法違反行為の未然防止や、関係者による公正かつ自由な競争環境の確保に向けた取り組みを促進する目的で、クラウドサービス分野に関する取引実態調査を実施した。

 報告書によると、IaaSとPaaSの市場では、11年度は日系ベンダーが最大のシェアだったが、14年度以降は米国ベンダーが首位に。米国勢のシェア拡大は目立っており、20年度は上位5社のうち、4社が米国ベンダーで、特に規模の大きい3社で計60~70%のシェアを占めた。

 公取委は報告書で「上位3社合計の市場シェアは年々高まり市場集中が進んでいる」と言及。市場での競争制限的な行為も示し、問題となる具体的な案件には「厳正・的確に対処していく」と強い姿勢を示した。

 グローバル展開するベンダーには、海外の競争当局も大きな関心を寄せている。今の当たり前の流れが加速し、クラウドがさらに普及すれば、ベンダーと当局の対立が現実になるかもしれない。IT業界を取材する立場としては、とにかくユーザーの不利益にならないことを願っている。

 
週刊BCN 編集長 齋藤秀平
齋藤 秀平(さいとう しゅうへい)
 1984年4月生まれ。山梨県甲州市出身。2007年3月に三重大学生物資源学部共生環境学科を卒業。同年4月に伊勢新聞社(津市)に入社し、行政や警察、司法などの取材を担当。16年4月にBCNに入社。リテール業界向け媒体の記者を経て、17年1月から週刊BCN編集部に。上海支局長を務め、22年1月から現職。旧姓は廣瀬。
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