視点

将来を見据えた視点を

2022/11/02 09:00

週刊BCN 2022年10月31日vol.1944掲載

 中国共産党の新しい最高指導部が発足した。「異例」といわれる習近平総書記の3期目突入をはじめ、人選には驚きが広がっている。習氏へのさらなる権力集中が取りざたされる一方、後継者不足を指摘する声もある。組織の違いはあるものの、国内の企業にも通じる部分があるといえるだろう。

 習氏の父は党の要職を歴任しており、自身は元高官子弟グループにあるとされている。新しい最高指導部からは、党のエリート養成機関出身で、序列2位の李克強首相らが外れ、習氏に近しい人物が要職入りした。緊迫する台湾情勢について強硬的な姿勢を示すなど、国際的に懸念される点がある中、国内では、ブレーキ役を事実上排除した新しい最高指導部の体制をリスクと見る向きは少なくない。

 習氏は、中国では庶民派であることをしばしばアピールしてきた。北京市内のチェーン店で他の客とともに肉まん(包子)を頬張る姿を披露したり、春節(旧正月)に同市内の大衆食堂を訪れたりしたことは有名な話だ。

 だが、私の印象は違う。中国に住んでいた頃、有名なインターネットの規制を実際に体験したほか、街の至る所に設置されているカメラを目の当たりにした。ITを活用し、半ば強制的ともいえる方法で国民を"指導"する豪腕ぶりには、庶民的というよりも、厳しさを感じることのほうが多かった。

 新しい指導部に対しては、明確な後継者は不在との見方がある。トップの世代交代の観点で見ると、同じような問題は国内の企業にもある。中小企業庁が今年4月に発表した「2022年版中小企業白書・小規模企業白書」では、全企業の99%以上を占める中小企業や小規模事業者の動向について「年齢の高い経営者の比率は高まっており、事業承継は引き続き社会的な課題」と警鐘を鳴らし、「事業承継を適切に実施し、次世代の後継者に引き継いでいくことが重要」と指摘した。

 習氏は現在69歳。「68歳定年」の慣例とは異なり、引き続きトップの地位を維持する。80代以上の経営者もいる国内の企業からすると、まだ若いとみられるかもしれないが、いずれ衰えるときはやってくる。先の中国共産党大会で、突然の退席を注目された胡錦濤前総書記のように、いつかは同じ状況になることは否定できないだろう。中国共産党にしても、国内の企業にしても、組織を持続させるためには、将来を見据えた視点が重要だ。

 
週刊BCN 編集長 齋藤 秀平
齋藤 秀平(さいとう しゅうへい)
 1984年4月生まれ。山梨県甲州市出身。2007年3月に三重大学生物資源学部共生環境学科を卒業。同年4月に伊勢新聞社(津市)に入社し、行政や警察、司法などの取材を担当。16年4月にBCNに入社。リテール業界向け媒体の記者を経て、17年1月から週刊BCN編集部に。上海支局長を務め、22年1月から現職。旧姓は廣瀬。
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