視点

シンギュラリティは到来したのか

2023/02/01 09:00

週刊BCN 2023年01月30日vol.1955掲載

 昨年夏、AIが作成した絵画がコンクールで優勝したというニュースを皮切りに、キーワードから絵を書くAI、動画を作成するAI、年末には会話できるAIの「Chat GPT」が公開され、自然な会話が成立するAIとして話題となった。

 これらAIの何がすごいのか。技術的なことは書き切れないので割愛するが、これらAIの制作物がクリエイティブな領域で人間の制作するレベルに近づいているということで、いよいよシンギュラリティ(AIが人間の知能と融合する時点)の到来が想像できる範囲になってきたといわれている。

 では本当にそうなのか。話題になったものを試してみて、クオリティの高さに驚くとともに人間にしかできない創造性についても再認識させられたのが実感だ。この先の5年、10年を見たときに単純作業はコンピューターに置き換わるのは確実だ。そして今回のクリエイティブ領域での自動生成のレベルをみると、創造性の高い領域は人間にしかできないと思っていたが、パターン化された創造物はAIが実用十分なものを作り出せることが証明されてしまった。

 一方、Chat GPTと会話して思うことは、情報がないときには適当に嘘をつくのだが、その答えは想像の範囲を超えていないという感覚を持った。つまり答えは平準化され、一般的に受け入れられるものとなっていき、例外的な創造物、つまり「0」から「1」を生むことは、まだまだ先のことではないかと感じた。

 ただし、グラフィック制作の背景や風景など、パターン化された作業に近い創作活動はAIが一瞬にしてこなしてしまうことは明らかになった。クリエイティブな領域は人間にしかできないだろうといわれてきたが、その領域はだいぶ狭くなったといえるだろう。そしてこれらのシステムを利用する際に、人間はAIが適切な結果を導き出すためのキーワード(コマンド)を考えて与え、創作活動はAIが行う。この行動の逆転に、すでにシンギュラリティの到来を予感せざるを得ないことも事実だ。

 人類がコンピューターの配下になるという発想ではなく、うまく使うという発想でシンギュラリティを捉えれば、日本はピンチをチャンスに変えられるかもしれない。人口減少によって労働力が圧倒的に減少し国力が落ちることが確実な中、これらのAIをフル活用し労働力不足を解消できればいいのだから。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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