視点

情報社会と社会貢献活動

2023/02/15 09:00

週刊BCN 2023年02月13日vol.1957掲載

 昨年10月の本欄において、仙台にある東北少年院で著作権・情報モラルについて話したことを書いた。罪を犯した少年たちが更生して社会に出るとき、今までの肉体労働などに加えてICT企業なども選択できるようにという取り組みの一環である。少年院を管轄する法務省も訪ねたいが、コロナ禍で中断していることも書いた。それが昨年末、ようやく法務省に行って、意見交換をすることができた。

 少年院にいる子どもたちにも好きなゲームや漫画やアニメがあるし、eスポーツプレイヤーへの夢もある。ICTについて学べば、自分が創作する側に回ることができるかもしれないし、ゲームやアニメなどのコンテンツを流通させたり、利用するなどのビジネスに関われたりする可能性もある。そのためには著作権を知ることが必要だ。

 著作権を学ぶことは、少年たちに夢や誇りを持ってもらう現実的な第一歩になる。このような内容のことを法務省の課長らに話し、著作権について学ぶことの意義を説明した。

 一方、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の会員企業には、少年院でのICT教育に協力してほしいと考えている。少年院での教育に携わることは、会員企業にとっても社会貢献になるのではないか。ACCSに集う企業として、著作権保護活動とは別の価値があると感じている。

 今回、法務省を訪問できたのは、私が著作権の講義を受け持っている国士舘大学に、法務省で少年院に長く携わってきた先生がいたからだ。昨年10月に東北少年院に行ったことを話したところ、それを単発で終わらせてはならないと、後輩である法務省の職員につないでくれた。私の思いが、周りの人の思いにつながり、波紋となって広がっていく。そのことを実感した法務省訪問であった。

 私は東京工芸大学でも著作権を教えているが、学生の中には既にプロとして稼いでいる漫画家もいる。今後、全学で著作権の授業を必修科目にする提案をするつもりでいるが、その一環として、学生と弁護士を結ぶ仕組みもつくりたい。プロを目指す学生には、契約や著作権を駆使した戦略立案で弁護士の力が必要だ。漫画やアニメ好きの若い弁護士にとっても、将来の顧客発掘というメリットがある。

 国士舘大で法務省とつながったように、東京工芸大でも人と人をつなげることで、クリエイティブな波動を起こしていきたい。

 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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