視点

「なんちゃらDX」が喧伝されるのは残念

2023/02/22 09:00

週刊BCN 2023年02月20日vol.1958掲載

 「人事DX」や「経理DX」「生産DX」などの「なんちゃらDX」を掲げたITベンダーの広告を見る機会が増えた。ユーザーもDXという社会の空気に押され、その空気に逆らえないでいる。そこに、なんちゃらDXを掲げるITベンダーやSI事業者がやってくる。それを受け入れれば、とりあえずは自分たちもDXに取り組んでいることになり、経営層にアピールできる。この利害の一致があるから、こうしたビジネスも成り立つのだろう。

 DXという言葉には、歴史的背景がある。「デジタル化」や「コンピューター化」「IT化」とは異なる概念だ。ここでは詳細に触れないが、「デジタル前提の社会適応するために、ビジネスモデルや仕事のやり方、企業の文化や風土を変革しよう。会社を作り変えよう」ということだ。

 デジタル技術は、そのための手段であって、それを使うことが目的ではない。ましてやパッケージやクラウド・サービスを導入することではない。そんな残念な現実を如実に物語っているのが、なんちゃらDXであろう。あるいは「DX化する」や「DXを導入する」「DXを採用する」といった表現ではなかろうか。DXの本質を理解していれば、このような表現を使うことは、はばかられるはずだ。

 既存の業務のやり方をそのままに、アナログからデジタルに置き換えても、それはDXではない。もちろん、このような取り組みは、コスト削減や生産性向上に貢献するわけだから、意味のあることだ。しかし、それだけならば、デジタル化やコンピューター化、IT化でいいわけで、あえてDXという言葉を使う必要はないだろう。それでもDXという言葉にこだわるのは、時代の空気に合わせているだけのことではないのか。

 皆さんは、DXという言葉で、お客様を正しい方向に導いているだろうか。ITを生業にするのなら、DXの本質にしっかりと向きあい、この言葉を正しく使うことが、プロとしての矜持であると心得るべきだろう。

 
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
斎藤 昌義(さいとう まさのり)
 1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。
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