視点

変革を実践するにはまず「いま」を終わらせよ

2023/06/21 09:00

週刊BCN 2023年06月19日vol.1973掲載

 人々の価値観やライフスタイル、ワークスタイルは、デジタルが前提となった。これに適応できない企業は生き残れない。だから、過去の成功体験を土台としたビジネスの仕組みを作り変える必要がある。この変革がDXだ。

 しかし、トップダウンの「DX指令」に翻弄された各組織は、このような本質的な議論を深めることなく、自部門だけでできる「カタチ」を模索する。本来のDXではなく、「DX的なこと」をやって、「見える成果」を示そうと、デジタルツールの導入に邁進する。

 これが悪いわけではない。業務の効率化や利便性は改善され、デジタルへの見識を高めることにはなる。しかし「デジタル社会に適応するために会社を作り変える」というDXの本来のあるべき姿には至らない。

 こうなことにならないようにと、デジタルリテラシー研修やDXセミナーを開催する企業が増えたが、これらの多くが、「教養番組」に終わっている。主宰するDX推進組織は、「DXやデジタル技術の理解が進めば現場が動き始める」というあり得ないロジックを土台にしているからだ。本来、DXは、組織の壁を壊し、全社的な観点から業務プロセスやビジネスモデル、企業の文化や風土を作り変えることだ。現場にまかせてできることではない。トップダウンとリーダーシップで、現場に変革を迫らなくてはならない。このようなことを棚に上げて変革を叫び、研修やセミナーを繰り返しても、DXが実践されることはない。

 DXに限ったことではないが、変革したければ、まず「いま」を終わらせなくてならない。「価値がなくなるものはなにか」に真摯に向き合うことだ。例えば、コロナ禍に直面し、ワークフローのデジタル化に取り組んだ企業がある。しかし、従来の書類と捺印によるワークフローは、そのまま残したので、むしろ業務が複雑化して、現場が混乱してしまった。さらに、まずはデジタルで手続きをさせて、後日、紙の書類も提出するローカルルールが作られてしまい、仕事が増えてしまったというのだ。

 研修をしても「いまを終わらせる」ことがなければ、成果は残せずに労力だけを費やして、疲弊してしまうだけだということを心得ておくべきだろう。

 
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
斎藤 昌義(さいとう まさのり)
 1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。
  • 1