視点

まずは紙頼みの業務の一掃を

2023/11/08 09:00

週刊BCN 2023年11月06日vol.1991掲載

 数カ月前のこと、市役所からマイナンバーカード更新の知らせが届き、市役所の分室に更新の手続きに行ったところ、いきなり申請用紙にボールペンでの記入を促され、更新手続きが終わるまでさらに2枚の用紙への記入が求められた。その上、更新手続きが完了するまで3日程かかるので、その間、マイナンバーカードを使わないようにとの注意まであった。人口が五十数万人という規模の自治体でさえ、デジタル化とは程遠い体たらくぶりである。

 また、年末調整の事務手続きを紙ベースで行っているので、至急デジタル化できないものかとの問い合わせがそれなりの規模の団体から舞い込んできた。こちらの団体も紙頼みの事務手続きが組織の至るところに残されており、数年で、すべてのデジタル化を進めたいとの話であった。同業のIT事業者の話を聞いても、これから紙頼みの業務からの脱却に取り組もうという団体・組織は少なからず残されているようだ。

 これも最近のことだが、異業種交流会で知り合った中小企業経営者、中小企業診断士、社会保険労務士といった方々との酒席で中小企業のDX推進について語り合っていたときのこと。自分のところでは社内文書のPDF化を済ませているが、それでは駄目なのか、とやや怒った口調で発言された方がおられた。その場ではあえて反論しなかったが、中小企業経営者にデジタル化の本当の意味さえ浸透していないことを改めて思い知らされた。

 紙の文書をPDF化しても業務のデジタル化にはならないし、見積書や請求書をワープロや表計算ソフトの定型書式で作成したとしても、それでは業務をデジタル化しているとは言えないということすら理解されていない。

 生成AIへの市場の期待がいや応なく高まっているところで、官民また規模の大小を問わず、紙頼みの業務が数多く残されている現実に、わが国のデジタル化の遅れという事態の深刻さも改めて認識させられた。

 紙頼みの業務をデジタル化するのは思いのほか簡単である。技術的要点を理解できさえすれば、いくつかのオープンソースを活用して短期間で実現できる。いくつもの業務アプリ間のデータ連携にしてもオープンソースを活用して、短期間で廉価に解決できるケースは少なくない。生成AIを活用する準備を急ごう。

 
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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