視点

デジタルを使うほどに企業は衰退する

2023/12/06 09:00

週刊BCN 2023年12月04日vol.1994掲載

 デジタル技術を駆使しても、仕事のやり方や組織のあり方を根本的につくり変えなければ、その価値を引き出せない。例えば、「Slack」や「Teams」を使ってコミュニケーション手段を高速化しても、稟議決済はアナログ時代のやり方のままに月1回の経営会議を通さなければ行動を起こせないとなると、アナログ時代のスピードと変わらない。

 また、ネットワークやAIを駆使して、時々刻々と変化する事象を正確に捉えることができても、上司の判断を得るためには報告書を作成して会議を開き、判断を仰がなければならないとすれば、絶好のタイミングを逃すか、危機的な状況を招きかねない。

 ほかにもある。一例をあげれば、MA(Marketing Automation)ツールだ。欧米では、デマンドの開拓は営業の役割ではなく、デマンドセンターが担うのが一般的だ。「ここにおよそ〇〇万円規模の確度の高い案件があります」と具体的な数字が見込める案件のみを絞りこんで営業に引き渡し、受注の効率を高める。このプロセスを効率化するのがMAだ。

 このようなMAを使う前提となる組織やプロセスを整えることなく導入して、広告宣伝自動化ツール程度にしか使っていないとすれば、なんとももったいない話といえる。

 ERPパッケージも同様だ。全体最適な経営を実現するために、あらかじめ用意されたテンプレートに合わせて、仕事のやり方を変えるための手段がERPパッケージだ。しかし、既存業務を変えることなく、これに合わせるために、カスタマイズやアドオンを膨らませ、膨大なコストを払っている企業は多い。

 どんなに素晴らしいデジタルツールを導入しても、前提となる思想や背景を理解せず、そのための組織やプロセスを変革しないままに、既存業務に当てはめようとしているとすれば、ゴルフの「ヘタを固める」のと同じである。

 それでは現場を疲弊させ、生産性を低下させ、企業を衰退させるだけだ。DXもまた同様なことにはなっていないだろうか。そんな現実を指摘し、正しい道に導くのも、ITベンダーの大切な役割ではなかろうか。

 
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
斎藤 昌義(さいとう まさのり)
 1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。
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