視点

著作権法改正3年目を機に新しい学力観を

2024/02/07 09:00

週刊BCN 2024年02月05日vol.2001掲載

 コロナ禍が始まった2020年初頭から丸4年。この間、日本のITの遅れが顕在化し、社会が大混乱したが、教育分野での著作物の利用に関しては前進もあった。

 授業目的公衆送信補償金制度のことだ。18年5月に3年以内の施行を条件に著作権の権利制限規定が見直され、オンライン授業では、著作権者の許諾なしで著作物を扱えるようになり、また、同時にオンライン授業以外でも、教育機関が補償金を支払うことで著作物を利用できるようになった制度である。

 全国の学校でオンライン授業が導入され始めた20年4月に緊急施行され、その年度のみ特例的に補償金は無償、21年度からは有償で運用されている。補償金を分配する機関として、各種メディアやコンテンツの業界団体が参加する授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS/サートラス)が設立されている。

 昨年11月、この制度について「著作物の利用環境整備は進んだか」というテーマで、文化庁著作権課出身で現在福岡教育大学の大和淳教授と2人で講演を行った。私は山口大学特命教授として参加したが、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)専務理事として権利者側の立場で話せることも合わせた人選だと思う。

 この制度は、ICT授業が進まない理由として著作権の権利処理がネックになっているということから始まった。実際には全くのうそなのだが。とはいえ、学校の情報化のため18年に決まった制度である。学校現場においては趣旨を理解して、大いに著作物を活用してほしい。

 一方、上記権利制限規定の適用を受けない教育機関内の著作物利用に関しては、著作権法の原則にもどり、従来通り権利者の許諾が必要となっており、そのためライセンス制度(使用許諾契約)を求める声もある。

 この点、ACCS会員企業はパッケージソフトのシュリンクラップ契約の時代から、ライセンス制度を導入してきた。ユーザーに使いやすい環境を提供することで成長してきた業界とも言える。

 大学教員でありACCS専務理事である私は、著作物の利用者側である教育機関と著作権者である会員企業、著作権集中管理団体のサートラスが三方よしの制度になるよう貢献したい。

 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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