視点

生成AI時代の著作権教育

2025/06/18 09:00

週刊BCN 2025年06月16日vol.2063掲載

 山口大学特命教授として提携先の弘前大学教育学部の2年生、約170人を対象に講演を行った。内容は、著作権法をはじめ、私が常々言っている情報の価値や意味といったことを含めた情報教育全般についてである。

 ルールとモラルの違いといった根本的なところから話をした。まだ20歳くらいの学生たちには、それでも新鮮だったようだ。全ての「法律」は私たち自身が主体的につくるものだという説明が妙に納得されたのは驚いた。遠い世界のことだと思うのも無理からぬことだが、例えば毎年のように改正される著作権法は、そのときどきの社会に合わせて、権利者と利用者の双方の意見を調整して制定されている。何事も、人ごととするのではなく、自分の問題と捉えるとものの見方は変わる。

 著作権について説明した段では、将来教師になったとき、子どもたちに「マネをするな」という教育はしないようにくぎを刺した。「マネ」という言葉には、表現だけではなくアイデアも含める場合が多いし、表現だって許諾を得れば使えるからだ。読書感想文であれば、構成はマネをするところから始まるはずだし、写生だって同じ場所から見れば構図は似てくる。それでも独自の文章表現や、絵の具の使い方などが個性として著作権で保護されるのだ。

 著作権は、とかく財産権的な側面が注目されるが、教育においては人格権を重視してほしいとも思う。小学1年生が書いた作文にも人格は宿る。一生懸命に考えた人格の発露としての文章を教員が簡単に否定してはいけない。俳句を教師に勝手に直されてコンクールに提出されて、賞をもらったが、全くうれしくないという子の話もある。子どもの創造力を育てるという意味でも著作権について教員が知っておくことは重要なのだ。

 さらに、SNSなどでのフェイクニュースにどう対処するか。まず、情報の発信元を確認して判断することは欠かせない。そうした情報社会の生き方を養う上で、著作権を知り、考えることは基本となろう。

 講義の後、感想を書いて提出してもらったが、学生たちはよく理解してくれていた。著作権法に例示された9種類の著作物(情報)の意味や価値を考えることで、生成AI時代に突入した今後どう「情報」と付き合うか、考えることができる。学生たちには新しい視点を提供できたと思う。

 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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