視点

技術の完成度が問題なのか

2025/06/25 09:00

週刊BCN 2025年06月23日vol.2064掲載

 米国や中国では、車内に運転手がいない自動運転タクシーの営業が一部で始まっている。無人の車が乗客に「おはようございます、○○さん」と話しかけ、目的地までスムーズに送り届ける姿はSF映画そのものだが、サンフランシスコなどでは、これが早くも日常の風景になりつつあるという。

 一方、自動運転車が関係した交通事故のニュースも度々報じられている。米Google(グーグル)から分社化した米Waymo(ウェイモ)は5月、同社の自動運転車両1200台以上をリコールすることを発表した。明らかに視認可能な物体との衝突が複数回発生していることを受け、不具合を解消するためだという。同社は2024年にもリコールを行っており、自動運転技術がまだ発展途上であることを伺わせる。

 これだけを見ると、自動運転の本格導入は時期尚早にも思える。安全が担保された技術でなければ社会が受け入れるのが難しいのは当然だ。しかし、技術の精度向上だけが普及に必要なこととも思えない。いかに自動運転が高性能になっても、目の前の交通状況に次にどんな変化が起きるか、無限のバリエーションを想定することはできないので、事故がゼロになることはない。それでも、このまま人間が運転するよりは機械に任せたほうが便利で安全となれば、完全無欠な技術でなくても徐々に導入は進んでいく。そして多くの場合、革新的なテクノロジーの普及は不可逆的であり、一度社会に浸透が始まってしまえば、たとえ問題を抱えていたとしても、それが存在しなかった時代に戻ることはない。

 IT技術者の確保が難しくなる中、AIによるシステム開発や運用を推進しようという動きがある。それに対して、「現在のAIの品質では、お客様に満足いただくのは難しい」として、採用を見送る意見もある。ここで気をつけたほうがいいのは、もし今後技術が向上して品質が改善されれば、その業務にAIを導入できるのかという点だ。

 本当にAIの質だけが不採用の理由なのであれば、ただ待っていればいつか解決する。しかし、実はAIに支援してもらうのが無理なほどに業務が属人化していたり、人を案件に張り付けておくこと自体が顧客への提供価値になっていたりしたら、この先どれだけAIが進化しても、技術者不足の課題をAIで解決するのは困難だ。新しいテクノロジーの導入の是非は、その完成度よりも、テクノロジーを受け入れられる状況にあるのか、ユーザー側の問題なのかもしれない。

 
週刊BCN 編集長 日高 彰
日高 彰(ひだか あきら)
 1979年生まれ。愛知県名古屋市出身。PC情報誌のWebサイトで編集者を務めた後、独立しフリーランス記者となり、IT、エレクトロニクス、通信などの領域で取材・執筆活動を行う。2015年にBCNへ入社し、「週刊BCN」記者、リテールメディア(現「BCN+R」)記者を務める。本紙副編集長を経て、25年1月から現職。
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