生成AIの活用を目指す企業が増えるにつれ、ストレージに求められる役割も変わりつつある。データを安全に「保管する」場所から、AIですぐに活用できるかたちに加工することで、データを「生かす」場所としてストレージ製品を位置付けているのが、日本ヒューレット・パッカード(HPE)だ。AIとデータをシームレスにつなぐ「データインテリジェンス」を搭載した「Alletra Storage MP X10000」では、RAG(検索拡張生成)用データベースの自動生成など、データマネジメント性能の高さを優位性として提示し、企業のAI活用を後押しする構えだ。
(取材・文/堀 茜)
保管場所から「生かす」場所に
HPEは、「3PAR」や「Nimble Storage」など過去に買収した企業の製品も含め、ストレージ製品に多数のラインアップを抱えていたが、各製品の優れた機能をソフトウェアレイヤーで統合し、「Alletra Storage MPシリーズ」に集約する戦略を取っている。中でも、データとAIの活用を見据えて設計を行ったのが、スケールアウト型オールフラッシュオブジェクトストレージの「Alletra Storage MP X10000」だ。
(左から)冨澤渉氏、北元智史執行役員、山中伸吾部長
同社はITインフラをas a Serviceで提供する「GreenLake」を全体戦略の柱に据えている。X10000もGreenLakeに対応し、クラウド上から管理運用が可能だ。パートナー・アライアンス営業統括本部ストレージ営業部の山中伸吾・部長は、「ストレージのハードウェア製品とGreenLakeという当社戦略の全体像がうまく調和している。AIエージェントの活用が求められる現在にフィットした製品だ」と解説する。
Alletra Storage MP X10000
X10000は、Kubernetesベースのコンテナアーキテクチャーの上にさまざまな機能を構築しており、高度な拡張性がある。最大の特徴は、部署や用途ごとに格納した社内のさまざまなデータを、AIが活用しやすく自動的に加工する機能の「データインテリジェンス」を搭載している点だ。将来的に最大80ペタバイトまでの拡張が可能なほか、AIモデルと外部サービスをつなぐための標準規格であるMCP(Model Context Protocol)対応を2026年1月に予定している。用途に応じて最新の生成AIアプリケーションとMCP経由で連携することで、必要なサービスを容易に構築可能になるという。
データサービス事業統括本部データサービス技術部の冨澤渉氏は、ストレージ機器自身が、データを活用可能な状態まで適切に“料理”する点が最大の強みと説明。「ストレージの在り方が変わってきている。安全にデータを保管するというこれまでの機能は持ちつつ、ただの倉庫ではなく、加工も行ってすぐ使えるかたちで提供する『市場』のような役割になっていく」と展望。自社の持つデータをAIに生かしたいという需要に応える、AI活用に最適なデータ基盤としてX10000を提案していく考えだ。
AI活用の民主化に貢献
企業による生成AI活用では、大規模言語モデルと自社のデータをRAGで組み合わせることで、各種情報や独自ノウハウを共有したり、固有の業務をより高精度に効率化したりできるようになるとみられている。ここでは、データの鮮度をいかに確保するかが大きな課題となる。現状では、RAGの情報源となるベクトルデータベースは手作業で更新するケースが多く、毎日新たに追加されるデータを即座にRAGに反映するのは難しい。これに対してX10000は、データインテリジェンスによってデータをリアルタイムにベクトル化するため、RAGが常に最新のデータを取得できるようになる点も大きなメリットになる。執行役員の北元智史・データサービス事業統括本部長は「企業がAIを導入するハードルが大きく下がり、AIの民主化に貢献できるのではないか」とみる。
AI向けのデータ基盤としては、クラウドサービスとして提供されるデータレイクなどが選択肢としてあるが、データインテリジェンスを搭載したストレージ製品を展開することで、オンプレミスでもAIデータ基盤を素早く構築するという新たな選択肢をHPEは提供しようとしている。同社は、クラウドに上げられないデータをAIで活用する際にはX10000が最適だとした上で、コスト面での優位性も高いとし、ユーザーが必要とする機能や扱うデータの性質によってクラウドとオンプレミスを使い分けるハイブリッドな形態になっていくとの見通しを示す。
販売にあたってパートナーとの連携について、山中部長は「パートナーのAI戦略とどう調整していくかが重要になる」と話す。AIの知識についてはパートナーによって濃淡があるため、X10000のAI活用に特化した機能などについて理解を深めてもらう取り組みを実施するほか、異なる強みを持つパートナー間のマッチングも促進する。これまでのストレージ製品とは提案の方法が大きく変わってくることから、顧客に提案するためのストーリーをパートナーと共に描きたいとする。