生成AIが世界的に大きな注目を集める中、グーグル・クラウド・ジャパンは、AIモデル「Gemini」やAI開発プラットフォームの「Vertex AI」などフルスタックのAI技術を有する企業として、業界特化型のソリューション開発をパートナーと共に推進している。「インダストリーファースト」戦略のもと、国内の大手SIerなどとの連携を強化し、さまざまな業界でのAI普及を加速させる考えだ。(大向琴音)
パートナーと共同でソリューション開発
同社では、過去4年間でパートナーの数が2倍以上に成長するなど、パートナービジネスが着実に伸長している。パートナーは「セルパートナー」「サービスパートナー」「ビルドパートナー」の三つのエンゲージメントモデルに分かれており、それぞれが得意分野を生かした事業を展開している。
同社は現在、生成AIをはじめとする技術革新の波を受け、パートナーエコシステムの変革に本格的に着手している。これまでは、クラウドネイティブ系のインテグレーターとの連携が中心だったが、2025年からは国内の大手SIerとの戦略的な市場開拓に注力。特に25年度は「Transformation1.0」と位置づけ、NTTデータや富士通といった大手SIerとの協業を加速させている。25年を皮切りに3カ年の計画で事業を拡大させ、パートナーエコシステムの持続的成長を目指す姿勢だ。
これらパートナー戦略の軸にあるのがインダストリーファーストの考え方となる。パートナー事業本部の上野由美・上級執行役員は、「パートナーのほうが業界に入り込んでおり、業界ごとの知見がある。加えて、業界特有の課題や顧客が進化を目指している部分についてもパートナーがよく理解している」と分析する。米Google(グーグル)のテクノロジーとパートナーの持つ“ドメインエクスパティー(専門知識)”の掛け合わせに取り組み、パートナーと共に中長期的なビジネスプランを見据える。このビジネスプランにおいては、製品の再販だけではなく、大手SIパートナーが既に提供しているソリューションにグーグルのテクノロジーを埋め込むといった開発をパートナーと共同で行うことなどを重視している。
上野由美・上級執行役員
フルスタックのAI技術を生かす
現在、フォーカスしているのがAI関連の商材だ。同社は、ハイパーコンピューティングやフレームワーク、プロトコル、AIモデル、アプリケーション層にあたるAIエージェントなど、AIに関わるテクノロジーをフルスタックで提供できる点を強みとする。パートナーはグーグルの技術を活用して独自のAIエージェントを開発できるのに加え、「Google Cloud Marketplace」を通じて日本やグローバルに展開することが可能となる。
また、同社が連携を強化している日本の大手SIerは、富士通の「Takane」やNECの「cotomi」といった独自のLLMを持っているが、これらを競合と見なしてはいない。例えばGeminiはマルチモーダル性に優れている一方、他社製のLLMは日本語処理や特定業界に特化しているなど、それぞれのモデルには得意分野があるため、顧客は業務や課題に対して最適なモデルを選択することが可能となる。
業界知識の深いパートナーを開拓
パートナーエコシステムの進化について、上野上級執行役員は「現状は思っている以上に進展がある」と語る。25年夏には複数の提携リリースを発表しており、業界特化型の取り組みを加速させていることが分かる。その一つが、NTTデータとのグローバルでの戦略的提携だ。NTTデータが持つ業界知見やSIの実績と、グーグルのAIやクラウド技術の融合を見据えた提携で、業界特化型AIエージェントの共同開発や、厳格なセキュリティー要件とデータ主権が求められる企業への対応、ソブリンクラウド関連サービスの提供などに注力する。NTTデータ社内にGoogle Cloud専門チームを設置し、デリバリー体制の強化も進めているという。
パートナーエコシステム拡大に向け、上野上級執行役員は「ただ単純にパートナーを増やすのではなく、インダストリーファーストの戦略に沿ったパートナーのケイパビリティーがあるかどうかをしっかり見ていく。互いに中長期で日本の市場をいかに開拓できるかについての合意形成が重要だと思う」と述べる。インダストリーファーストの推進においては、業界ごとの専門性を持つパートナーとの連携が必須となる。ヘルスケアや、製造業におけるOTといった、同社がドメインエクスパティーを持っていない領域に強いパートナーにアプローチすることなどを方策として挙げる。最終的には、業界全方位で取り組める体制を目指している。