AIが企業活動において不可欠な存在となり、どう業務に活用していくかが今後の成長を左右すると言われるようになった。SIerをはじめとしたITベンダー側には先進的な技術を活用したソリューションの提案が求められているが、AIを主軸とするビジネスの創出には苦戦しているケースが少なくない。日本マイクロソフトは2023年から、国内独自の取り組みとして「生成AI事業化支援プログラム」を展開し、パートナーのAIへの取り組みを支援することで、AI普及の加速を目指している。(岩田晃久)
豊富な支援を提供
生成AIで行える業務の範囲は常に拡大し続けている。日本マイクロソフトで執行役員常務を務める浅野智・エンタープライズサービス本部長兼パートナー事業本部長は「『AIに任せる部分は任せる』といったように、人間と共存できるレベルになってきたと実感するお客様が増えている。日本企業の場合、細かい業務が多いため、そこに『Copilot』を利用するケースが増加しており、グローバルで見ても日本のAI利用スピードは速い」と述べる。
こうした状況はITベンダーにとって大きな商機になるが、現状ではAIを活用したビジネスのマネタイズに試行錯誤している状況が見受けられる。米Microsoft(マイクロソフト)では、パートナープログラムの「Microsoft AI Cloud Partner Program」を通じてクラウドやAI製品を構築、販売するための豊富なリソースを用意し、グローバルでパートナーを支援している。そして、日本独自の取り組みとして推進しているのが、生成AI事業化支援プログラムだ。
生成AI事業化支援プログラムは、マイクロソフトとパートナーが連携し、生成AIの利用を拡大・活性化させることを目的としている。「Azure AI」「Microsoft 365 Copilot」「Security Copilot」といった製品に関する技術・各種情報の提供、生成AI事業化のためのオファリング構築支援、マーケティングコンテンツ、パートナー向けファンドに関する情報の提供、パートナー間の情報共有を促進するイベントや、案件創出のための顧客とのマッチングイベントの開催などを実施。AIの「開発」と「利用」のそれぞれで必要な支援を展開する。浅野執行役員常務は「生成AIは生まれたばかりであり、ものすごく取り組んでいる企業がある一方で、これからやっていきたという企業もあるなど温度差が見られる。生成AI事業化支援プログラムを展開しているのはこのためだ」と説明する。
浅野 智 執行役員常務
230社以上が参画
生成AI事業化支援プログラムは23年に開始しており、SIerやコンサルティングファーム、AIを主力事業とする「AI Nativeベンダー」、伴走支援ベンダーなど、参画する企業の業態は多岐にわたり、計230社以上となっている。戦略策定や業務分析といった段階ではコンサルティングファームが、開発や運用といったフェーズではSIer、検索拡張生成 (RAG)の構築といったAI特有の部分ではAI Nativeベンダーといったように、パートナーにより得意とする領域が異なることから、このプログラムを通じて各社の連携を促進している。
特定の業種の課題をテーマに、パートナーがその課題に沿ったAIのアプローチを提案するピッチコンテストなど、さまざまなイベントを用意する。ここでの成果は「Microsoft Ignite」をはじめとしたイベントで発表されるという。
プログラムは10月1日から第3期がスタートしており、2026年8月31日までの予定で実施される。参加にはMicrosoft AI Cloud Partner Programに登録していることなどが条件になるが、高いハードルは設けていない。一方で、情報収集だけを目的とした加入は求めておらず、継続・更新していくには、月次イベントへの積極的な参加、情報発信やパートナー間ネットワーキングなど、プログラム内の活動への貢献が求められている。あくまで、生成AIの事業化に向けて具体的に取り組んでいるパートナーを対象とした支援という位置づけだ。
セキュリティーが差別化ポイントに
AIビジネスの立ち上げを後押しするパートナー支援は、マイクロソフトの競合となる他の大手クラウド事業者も注力している領域だ。その中での差別化要素の一つとして、浅野執行役員常務はセキュリティーを挙げる。今後、AIエージェントの業務への導入が加速すると考えられるが、エージェントが社内のツールやデータにアクセスするようになると、そのIDやアクセス権をどのように管理するかで、大きな手間がかかる。
マイクロソフトでは「Active Directory」「Entra ID」の提供を通じて、ユーザーやデバイスのライフサイクル管理を支援してきた実績があり、AIエージェントの管理に関しても「すでにプラットフォームがあることから、(人に付与するIDと)同じように管理ができる。長年、Active Directoryを扱ってきたパートナーにとっても強みが発揮できる部分になる」と自信をみせる。
浅野執行役員常務は「活用目的がないがAIを使いたいというお客様の場合、うまくいかないケースが少なくない。どんな成果を出したいかが明確なお客様が、AIの利用に成功している」と傾向を述べる。企業のAI活用を加速し成功に導くにはパートナーの存在が不可欠となるため、生成AI事業化支援プログラムの活用を促進していく。