「AI is eating software」をご存じだろうか。このフレーズが今や現実となり、大手SaaS企業の株価さえも揺るがす程の激しい潮流となった。
この地殻変動の核心は、ソフトウェアの価値の源泉がGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)からCUI(会話型ユーザー・インターフェース)へと劇的に移行した点にある。これまでソフトウェアの価値は、開発企業独自のビジネスロジックと、それを操作するために洗練されたGUIに宿っていた。ユーザーはその複雑な操作方法を学ぶ必要があったが、AIの登場がその前提を覆した。
ユーザーはもはや、無数のボタンやメニューの配置を覚える必要はない。自然言語で指示するだけでAIがその意図を解釈し、背後にある無数のAPIを呼び出してタスクを完遂する。価値はユーザーとの対話接点を支配するAIへと移行した。
ソフトウェアはその「顔」であるGUIをAIに「食われ」、バックグラウンドで動くコモディティー化された「機能実行エンジン」へとその役割を変えていく。これこそがAI is eating softwareの正体である。
今やユーザーフレンドリーなGUIを必死につくり込まなくても、AIによるCUIさえあれば使い始めたその日からユーザーのさまざまな要望に柔軟に応えることができてしまう。既存のSaaS企業がこの流れに抵抗し、高額なSaaS本体にAI機能をアドオンする戦略は、市場の支持を得られていない。AIがもたらす圧倒的な柔軟性と根本的なコスト構造の変化に対応できず、「食われる」側としての苦境が鮮明になりつつある。
では、GUIという長年の価値の源泉を失ったソフトウェアが向かう未来とは何か。その唯一の答えは、自社の核となるビジネスロジックをAIにとって最も連携しやすいAPIとして再定義し、提供することにある。もはやGUIの使いやすさや美しさを競う時代ではない。「APIファースト」の堅牢なバックエンド構築へと重心を移さねばならない。
これからのソフトウェアは人間が「使う」道具ではなく、知性と「対話し協働する」存在となる。GUIというインターフェース層での消耗戦から脱却し、API提供というかたちでAIエコシステムに組み込まれる企業だけが、新たな価値を生み出す側として生き残ることができるだろう。
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫

松田 利夫(まつだ としお)
1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。