鹿児島で私立小学校の設立プロジェクトに参画している。その中で、どのような教育が求められているのかを改めて考える機会が多い。ヒトの発育段階を、身近なコンピューターの仕組みになぞらえて考えてみた。
コンピューターは、ハードウェア、BIOS、OS、アプリケーションという階層構造で動いている。同様に、人間の成長も「身体」「本能・価値観」「認知」「創造性」という段階で捉えることができる。
幼少期は、まずハードウェア構築の時期である。睡眠、運動、味覚を含む感覚刺激、人との触れ合いが、脳や身体という機械そのものを形成する。さらに、この時期にはBIOSに相当する基礎設定も書き込まれる。BIOSとは、電源投入直後にコンピューター全体の起動方針を決める最も根源的な制御層である。人間でいえば、「自分は愛されているか」「挑戦してよい世界か」といった根源的な安心感や行動傾向に近い。ここは知識注入ではなく、家庭や地域での体験、人との信頼関係によって形成される。
この段階では、生成AIやデジタルデバイスの活躍する機会は少ない。外部知能に早く依存すると、自分で試行錯誤する回路が育ちにくくなるからだ。幼少期に必要なのは、効率よりも「身体で世界を理解する経験」である。
小学校高学年から中学生頃は、OS構築の段階に入る。論理、言語、倫理観、時間感覚など、思考の基本プロトコルが整備される時期である。この時期の教育では、「なぜそう考えたのか」を言語化させることが重要になる。生成AIは情報収集や比較には有効だが、答えを即座に獲得し続けると、自分自身のOSを鍛える機会を失う危険もある。
高校、大学段階はアプリケーション開発に近い。専門性を社会課題へ接続し、自分独自の機能を実装する時期である。ここでは生成AIは強力な補助装置になる。企画立案、コード生成、データ分析、文章整理などを支援し、人間はより高次の判断や創造へ集中できる。
ただし、AIには自主性も当事者性もない。教育で本当に育てるべきなのは、正解を出す能力ではなく、「何を問いにするか」を決める力である。
これからの教育では、便利で身近になったAIと人間の役割分担を再設計した上でどのような機会が与えられるべきかを考えることが必要なのだと思う。
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎

勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。総務省地域情報化アドバイザー、鹿児島県DX推進アドバイザー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。