「FDE(Forward Deployed Engineer)」という言葉が急速に広まり、客先常駐のエンジニアをFDEと言い換える会社まで現れた。またか、と思う。定義を自分たちに都合よく曲げ、言葉に自分を合わせるのではなく、自分に言葉を合わせる。バズワードとは、そうやって縮められた言葉の成れの果てである。
同じことが繰り返されてきた。DXは本来「変革」だが、既存業務を効率化するだけの「デジタル化」がDXと称され、「DX化(変革化?)」という造語まで生まれている。複数ベンダーの製品を一つの解に仕立てる仕事を指したSIやソリューションも、受託開発や単一製品の呼び名に流用された。FDEにも譲れない条件が三つある。要件が固まる前から関与すること、動くシステムで応えること、現場の知見を自社プロダクトに還すこと。還流先の自社プロダクトを持たない客先常駐は、その要件を欠いている。
言葉を自分たちの背丈まで縮めることは、無知の帰結ではない。正しい解釈を使えば自分たちの仕事がなくなってしまうからだ。もちろん最初は誤読もあるだろう。気付いたら改めれば済むことだ。しかし、そうすると今の仕事に差し支える。だから、誤りに気付いても正さないし、さらには理解しようとすらしないことになる。
その代償を払うのは誰か。専門家がそう使うのだからと、お客様も都合よく解釈する。経営の号令に、現場はデジタル化の成果をDXとして報告し、ベンダーもこれにお墨付きを与え、正当化する。誰もうそはつかず、誰もとがめられず、変革だけが起きない。やがて失われるのは、その会社への信頼、言葉への信頼、そしてITそのものへの期待である。正しく引き受け真面目に取り組んでいる人までが、疑いの目で見られる。
確かめる方法は簡単だ。「その言葉を使うようになって、何か変わったか」。何も変わらないのなら、看板を掛け替えただけである。必要なのは知識より前にプライドだ。「これはおかしいのでは?」という違和感を殺さないこと、顔の見えるお客様を持つこと、射程を長く取ること。射程が短ければ今をなんとか乗りきることが最適解になり、長ければ誠実が最適解になる。そしてこれは、正しいことを言った人が報われる場をつくれるかという、経営の問題でもある。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。