NECグループの中核SE会社であるNECソリューションイノベータは、国内外のSEリソースを動的に割り当てる「ダイナミックリソースアロケーション」を推進している。事業部門ごとのSE稼働率を一定の水準以上に高められるよう、SEリソースを柔軟に割り当てる取り組みで、NECソリューションイノベータを含むNECグループ全体の3万人余りを対象としている。これまで海外オフショアに依存していたSE不足の問題が、生成AIの活用によって緩和される見込みであることも、動的なリソース割り当てには追い風となる。4月1日付でNECソリューションイノベータのトップに就任した岩井孝夫社長に話を聞いた。
(取材/安藤章司 写真/大星直輝)
生成AIの登場はチャンスでしかない
――NECグループ内におけるNECソリューションイノベータの位置づけについて、まずは教えていただけますか。
当社は従業員約1万3000人を抱えるNECグループ最大のSE会社で、ITサービス事業の中で主にソフトウェア開発や成果物の納品といったデリバリー部分を担っています。私は4月1日付でNECソリューションイノベータの社長に就任するとともに、NEC本体の執行役Corporate EVP兼デジタルデリバリーサービスビジネスユニット長を兼務しています。当社とNECグループが一体となって、ITサービス戦略を遂行しています。
――生成AIの登場で、ソフト開発の手法が大きく変わろうとしています。米国ではプログラマーの採用を抑制し、AIでコードを生成する方向へ軸足を移すといった動きもあるようです。
当社はソフト開発の生産革新の文脈で、長年にわたってさまざまなツールの活用や開発手法の刷新に取り組んできましたが、今般の生成AIの動きは、過去と一線を画するものだと認識しています。生産革新に役立つことは間違いなく、従来の開発手法を破壊的に変革するインパクトがあります。
「プログラムを組む人材が余るのではないか」との指摘もありますが、足元を見ると常に多くの案件を抱えており、国内でこなせない部分は海外オフショア開発に頼っているのが現状です。オフショア開発先の中国やベトナムのSEの人月単価は、すでに日本と逆転するケースもあり、コスト削減の効果は薄れています。生成AIを駆使すれば、国内で可能な開発ボリュームの増加が期待できます。国内は就労人口の減少やデジタル化需要の拡大によりSEが常に払底していますので、生成AIの登場はピンチどころかチャンスでしかありません。当社においても積極的に生成AIの活用を進めていきます。
――海外に外注していた仕事を国内に呼び戻す効果も見込めると。
世界的に見ると就労人口が多い中国やインドは、プログラムのコーディングやテスト工程に大量の人員を投入できる強みを生かしてソフト開発の仕事を引き受けてきた経緯があります。日本で同じことをするのは難しかったのですが、AIによる自動化で労働集約的な要素を排除すれば、これまで中国やインドに頼っていた仕事を国内でこなせるようになることも考えられます。日本のデジタル赤字の圧縮にも役立つのではないでしょうか。
案件の初期段階でリソースを最適化
――AIでコード生成やテストを行うことで、ソフト開発力の内外格差が平準化される一面があるということですか。
もちろん彼らもAIの活用を進めるでしょうから、そんなに簡単な話ではないのかもしれませんが、少なくともAIを駆使して生産革新を進めることで、国内でこなせる開発量が大幅に高まることは間違いありません。
――NECソリューションイノベータとしては、どのようなかじ取りをしていきますか。
当社を含むNECグループ全体の戦略として、ソフト開発の人的リソースを動的に割り当てる「ダイナミックリソースアロケーション」を推進していきます。その時々の需給状況に合わせて、国内外の最適な場所で開発を行う施策です。SEの稼働率が低いと利益を圧迫しますし、逆に稼働率が上限に達していると、それ以上の受注ができなくなり、機会損失につながります。ダイナミックリソースアロケーションはSE稼働率を平準化させる意味で非常に有意義な施策となります。
AIによる翻訳も年々完成度が高まっていますので、言葉の壁も限りなく低くなっていることから、例えば海外で受注した案件を国内で開発したり、国内で受注した案件を、日本語がまったく通じないインドでAI翻訳を使って開発したりすることも容易になります。
NECグループの国内外SE人数は3万人余りで、うち当社が主要部分を占めている状況ですので、ダイナミックリソースアロケーションを推進する上で当社の果たす比重はとても大きく、中核的な役割を担っていく立場にあります。
――SEはユーザー企業の業務に深く入り込んで、ITと業務を掛け合わせた仕事をする点に最も大きな価値があると思いますが、その点はどう捉えればよいですか。
SEにとって業務知識は非常に大きなアドバンテージになりますが、一方で特定の業務に特化しすぎると、ダイナミックリソースアロケーションを行うのが難しくなる側面も持ち合わせています。
例えば、金融業向け事業部に属するSEは、銀行や保険といった業務知識を持っており、その中でもさらに細分化された業務に精通するケースも少なくありません。組織的にも事業部とSEが密に結合しており、隣の事業部に属しているSEの稼働率が限界になっても、事業部間の壁を越えてSEを融通しにくい課題がありました。ダイナミックリソースアロケーションを実現するには、複数の事業部をまたぐようなかたちでSEを配置し、事業部間を行き来しやすいよう改善していく必要があります。
並行して、どこの組織にどのようなスキルをもったSEがいるのかといったタレント管理を高度化するとともに、案件が発生してプロジェクトを組成する初期のタイミングからSEリソースの割り当てを始められるようにしたいと考えてます。受注確度は統計で割り出せるため、それこそAIが得意とする領域です。従来はNEC本体の営業担当者と当社SEが「この案件の受注確度はこれくらいで、SEは〇〇人必要だ……」などとやりとりしていたものを自動化して、プロジェクトの組成前からリソースを割り当てられれば、SE稼働率を最適化できる余地が広がります。
異業種参入支援で生きる業務ノウハウ
――NECソリューションイノベータ独自事業の割合はどのくらいありますか。
NECグループとの連携事業が売上高の9割、当社の自主事業が1割を占めています。当社は全国の地域SE会社が統合して発足した経緯から地方拠点が多く、自主事業は自治体や地域の民需向けが中心です。当社のデジタル地域通貨基盤「応援経済圏構築プラットフォーム」は地域経済の活性化に役立ててもらっていますし、自主事業ではありませんが、大阪・関西万博の独自電子マネー「ミャクペ!」にも採用されています。
――岩井社長のキャリアについても教えていただけますか。
私は新卒でNECに入社してから金融業向けSE一筋で23年勤めてからCorporate SVPになりました。当社やその前身の地域SE会社のメンバーとも旧知の仲ですので、社員やビジネスパートナーから見れば「非常に親和性の高い社長が就任した」と思われているのではないでしょうか。先ほど、SEの強みは業種や業務のノウハウだという話がありましたが、私は金融向けの中でも特に為替業務向けのシステム開発が長く、仕事の合間に銀行業務検定の外国為替3級に合格して、ユーザー企業の担当者に驚かれたことがあります。
ダイナミックリソースアロケーションを考慮すると、SEが業種・業務に特化しすぎると融通しにくくなる側面はある一方、例えば異業種が金融業に参入するようなプロジェクトであれば、金融業の業務知識を持つSEは大いに役立ちますので、まったく相性が悪いわけではありません。SEの強みを生かしながら動的にリソース配分できるよう工夫していくことが大切だと思っています。
――ITと業務の両方を知ることがSEの醍醐味だと。
まさしくそうだと思います。いくらAI時代であっても、AIが導き出した結果をうのみにするSEは信頼できるSEとは言えません。ユーザーが属する業界や業務の深い部分まで理解していれば、AIの回答を責任をもって正しく判別できるようになります。それがユーザーからの信頼を醸成して、より大きなプロジェクトを任せてもらえるようになり、業績を伸ばすことにつながります。
眼光紙背 ~取材を終えて~
新卒でシステム開発の現場に配属された。諸先輩は多忙を極めていたこともあり、「ひたすら先輩の背中を見ながら、見よう見まねで仕事をしていた」と当時を振り返る。ある日、第一線で活躍していた先輩が体調不良で一時休むことになり、仕事を引き継いだが、何も分からない。周囲に「すみません。教えてください」と頭を下げる自分を省みて、「これではプロとして責任ある仕事はできないと痛感した」ことが、今につながる原体験となった。
以来、自ら率先してユーザー企業の業務を知り、自分が何をすべきかを理解するよう努めるとともに、後輩たちにも「現地現物、ユーザーが何を求めているのか、業務の中身は何なのかを知ることの大切さ」を伝えてきた。ITスキルとユーザー企業の属する業界や業務ノウハウが合わさった「ドメインナレッジを持つことで、プロのSEとしての真価を発揮できる。AI全盛の時代になってもこの点は変わらない」と熱っぽく語る。
プロフィール
岩井孝夫
(いわい たかお)
1975年、岐阜県生まれ。2000年、名古屋大学大学院工学研究科修士課程修了。同年、NEC入社。21年、金融システム本部長。23年、Corporate SVP兼金融ソリューション事業部門長。25年4月1日、NECソリューションイノベータの代表取締役執行役員社長に就任。NEC執行役Corporate EVP兼デジタルデリバリーサービスビジネスユニット長を兼務。
会社紹介
【NECソリューションイノベータ】NECグループ最大のSE子会社で、従業員数は約1万3000人、2024年3月期の単体売上高は3080億円。全国の地域SE会社が統合するかたちで14年に現行の体制になった。