自動配送ロボットの活用を推進する一般社団法人「ロボットデリバリー協会」が2月18日に発足した。長引くコロナ禍でEコマースや注文後すぐに配達を行うクイックコマース(即配)サービスが拡大する一方、配送の担い手不足が深刻化し、それに代わる手段として自動配送ロボットに期待が高まる。同ロボット領域の法整備も進むなか、協会はロボット運用における自主安全基準の制定や、認証制度の仕組みづくりなどを活動の柱に掲げている。協会に参加する8社がこれまで精力的に実施してきた公道走行実証実験などで得た知見を共有しながら、自動配送ロボットの早期社会実装を目指す。
(取材・文/山越 晃)
近年のEコマースの動向に関し、協会発足式で発起人代表挨拶をした楽天グループの安藤公二・常務執行役員は「楽天グループでも2021年度のEコマースサービスにおける流通総額は、実に5兆円を突破した」と述べ、Eコマースが既に人々の生活基盤として定着し、社会生活に不可欠な存在となっていることを強調。フードデリバリーやネットスーパー、日用品などのクイックコマースサービス需要も急激に伸びていると紹介する。
楽天グループ 安藤公二 常務執行役員
一方で、配送の担い手は減少することも予想され、生活の利便性を高めるためのサービス拡大が頭打ちになる懸念も広がっている。これに対し、同協会の向井秀明理事(楽天グループ)は「この社会課題を解決する方法として、ロボットによる配送の無人化と省人化が注目されている。その重要な担い手の一つが自動配送ロボットになる」と、協会設立の背景を説明する。
向井理事は自動配送ロボットの利点について、一般的な自動車と比較してサイズが小さく、低速で走行することから、乗用車の自動運転よりも安全性を確保しやすく、早期に社会実装できる可能性もあると指摘している。「このような安全なロボットがインターネット通販、スーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストア、クリーニング店などで、さまざまなものを配送する社会を想定している」と語る。
ロボットデリバリー協会は川崎重工業、ZMP、TIS、ティアフォー、日本郵便、パナソニック、本田技研工業、楽天グループの8社で発足。協会は活動の柱として「自動配送ロボットの安全基準の制定と改訂」「自動配送ロボットの安全基準に基づく認証等の仕組みづくり」「自動配送ロボットに関係する行政機関や団体などとの連携」「自動配送ロボットに関する情報収集と発信」を掲げる。
向井秀明 理事
向井理事は「関係行政機関と密に連携しながら、ロボットデリバリーサービスの提供者に対し、安全基準に基づく認証の仕組みや、公道での安全な運行に必要なガイドラインの提供を目指していく」と話す。
経産省、警察庁、国交省も動向に注目
行政機関もロボットデリバリー協会の動向に注目している。協会の8社は、これまでの自動配送ロボットによる公道実証実験走行距離が合計で2500キロを超える実績を有し、行政側はその取り組みを評価している。
協会各社の自動配送ロボット
経済産業省商務・サービスグループの畠山陽二郎・商務・サービス審議官は「トラックドライバー不足などに起因する需給バランスの逼迫を回避し、物流機能を維持していくために、経済産業省においても物流の効率化に取り組んでいる」と説明。19年度に官民の協議会を立ち上げ、現在は各地で公道実証実験が実施されるなど自動配送ロボットの社会実装に向けた芽が出始めている期間と位置づけ、「民間企業が一丸となって業界団体の設立に至ったことを心強く感じている」と期待する。
警察庁は、20年に自動配送ロボットの公道における実証実験が開始されて以降、協会の参加各社が全国で実証実験を進めてきたことで、一定の安全性が確認されたとの認識を示す。交通局交通企画課の今村剛・課長は「警察庁は低速、小型の自動配送ロボットを、新たに道路交通法の体系のなかに位置づけるとともに、使用者が通行場所などを事前に届け出ることなどを内容とする、道路交通法の一部改正案を今国会に提出すべく準備を進めている」と語る。検討中の改正案における車体の安全性に関する項目は、協会が策定する自主基準や認証制度に依拠する形となる見通しで、内容にも関心を寄せているとした。
国土交通省は20年に自動配送ロボットが歩道を走行できる制度を構築した。自動車局自動運転戦略室の多田善隆・室長は「その後も、参加各社をはじめとする高い技術力と努力の結果、多くの実証実験が行われてきた。これからますます発展することが期待される配送ロボットの分野において協会が設立されたことは、ロボットのより一層の安全性、利便性の向上に寄与すると考えている」との見解を示す。
制度整備の動きについてロボットデリバリー協会の向井理事は、21年に公表された「成長戦略実行計画」では自動配送サービスを実現するため、自動配送ロボットの産業界における自主的な基準や、認証の仕組みの検討を促すことなどを前提に、関連法案の提出を行うと明記されたこと、また岸田首相の施政方針演説で自動配送ロボットが公道を走る場合のルールを定めることに言及があったことに関連し、「政府が産業界と連携のもと制度整備を行うなかで、ロボットデリバリー協会が産業界による安全基準と認証の仕組みづくりを担っていきたい。安全、安心で便利なロボットデリバリーサービスの早期社会実装を後押していく」と強調する。
多様な8社が結束に強い意気込み
ロボットデリバリー協会の会員企業は、主力事業を重工業、ロボットや自動運転の技術開発、SIer、物流、家電、自動車、インターネットに置く多様な8社で発足。各社がそれぞれ、サービスロボットデリバリーの将来に対して強い意気込みを見せている。
ロボットデリバリー協会の発足式に出席した各社の関係者
川崎重工業の石田正俊・執行役員社長直轄プロジェクト本部長は、「当社の『グループビジョン2030』で今後注力することとして、近代モビリティをはじめ三つの事業領域を定めている。自動配送ロボットはその中核をなすものと位置付けている」とし、関係省庁の指導も受けながらサービスの普及へ積極的に取り組んでいく構えを示している。
ロボットデリバリーについては、16年の早い段階から取り組んでいるというZMPは、協会の立ち上げに特別な思いを持っている。龍健太郎・ロボライフ事業部長は「当時を思い出すと、われわれの取り組みしかなく、本当に孤独な思いをしていた。しかし、物流クライシスやコロナ禍のいま、ロボットデリバリー協会が立ち上がったことを嬉しく思っている」と述べ、社会環境の変化でサービスの重要性が理解され始めていることに確かな手応えを感じている。
TISの油谷実紀・デジタル社会サービス企画ユニットジェネラルマネージャーは「ロボットそのものだけではなくシステム全体として安全性や利便性を向上させていけるかを検討しながら、デリバリーサービスロボットの普及に寄与していきたい」と、SIerならではの立ち位置で貢献していく考えを示している。
協会の活動が将来的に幅広い業界から関心をもってもらうことを期待する、ティアフォーの加藤真平・創業者兼CTOは「今後8社に限らず、日本や世界、また会社だけでなく個人も協会の取り組みに参加できるようになると盛り上がると思っている。ティアフォーも最大限に貢献したい」と力を込める。
日本郵便の金子道夫・専務取締役兼専務執行役員は「日本郵便も配送ロボットについては関係省庁の指導のもと、17年より実証を積み重ねてきた」と地道に取り組んできたと説明。その上で「今般のデジタル田園都市国家構想のなかにおいて、配送ロボットの活躍が話題になっている。われわれもいよいよ配送ロボットの実用化が近づいたと感じている。このような業界団体の活動を通じて、その実用化が推進されていくように取り組んでいきたい」との意向を表している。
パナソニックも、これまでに自動シャトルバスや、薬剤や検体を自律搬送するロボット「HOSPI」などで培ったさまざまな知見を持つ。村瀬恭通・コーポレート戦略・技術部門・事業創出部門・モビリティソリューションズ担当参与は「ロボットデリバリーに対して、われわれが今まで培ってきた自律走行のノウハウを生かし、協会の安全基準の策定などに貢献できるよう努力していきたい」と話している。
本田技研工業は、デジタルの時代への移行で生まれる社会課題のなかには、ロボティクス技術で解決していけることは多くあり、一方でその領域では社会実装の段階にまで至っていないこともあると分析している。板井義春・ライフクリエーション事業本部新事業領域DEB統括兼本田技術研究所常務取締役ライフクリエーションセンター担当は「今回の協会メンバーとともに、早い段階で実証できるように頑張っていきたい」と語る。
会員拡大も視野
ロボットデリバリー協会の向井理事は「サービスを提供する側にとって、物流クライシスは必ず避けたい障壁。これから配達を担う人材の不足は、間違いなく深刻化するだろうとみている。これを解消する重要な技術であり、一丁目一番地が自動配送ロボットと考えている」と強調する。
自動配送ロボットが公道を走り、社会に着実に浸透していくためには企業単体で政府と折衝していくより、業界団体として各社の知見を持ち寄りながら対応していくことが効果的になってくるとの認識を示す。
協会の将来的な会員拡大については「自動配送ロボットを活用したサービスであったり、自動配送ロボットを作りたいなど、志の高い企業の方々にぜひ参加していただきたい」と述べた。会員の拡大を進めると同時に、自動配送ロボットの普及に向けて、活動を本格化していく構えを見せている。