Letters from the World

現代の奴隷船?

2005/07/11 15:37

週刊BCN 2005年07月11日vol.1096掲載

 IT分野では、労働賃金の安い海外への開発業務の移管はすでに一般化している。特に米国では、就労ビザの取得など外国人労働者に対しては賃金以外の問題も多く、税務対策面からも、海外での作業は必須とされてきた。

 ところが米ソフトウェア開発会社のシーコードは、カリフォルニア沖、米領海を出てすぐの3マイル地点に巨大な外国籍の客船を浮かべ、そこで米国の各種法律に触れることなく海外からの労働者を働かせるという案を発表した。これに対して、事実上の違法行為という指摘や、何より現代の奴隷船だという非難が相次ぎ、大きな話題となっている。

 実はこれまでにも似たような例がなかったわけではない。公海上では米国の法律が及ばないことから、古くは漁業制限が課せられない点を突いての乱獲が大きな問題となっていた。

 近年は裕福層を相手にした豪華ギャンブル客船が非常に人気である。さらには食品加工を船上で行うことで輸入品扱いとし、衛生面や関税の制限を迂回するといういささか危うい手法も多く取られていたことがあるという。

 シーコードは、労働者に支払われる賃金は水準以上を維持する予定であり決して搾取ではないこと、また食料や物資の補給等で近郊都市の経済も潤うことなどを力説している。

 現在、米マイクロソフトの従業員中、米国人以外で一番多いのはインド人であるという。こういった現状をみると、IT産業の労働力不足を補うためには、シーコードが発表した案は企業側と受注側にとってはいいことづくめに見える。

 同社の計画によると、プログラマーは4か月の勤務の後2か月の休暇も貰えるという。この条件はアジア諸国での数倍という給与と共に、彼らが自分たちの母国で働いた場合では考えられない厚遇だ。

 実現すれば人気を博すことは間違いないと見られており、今のところ反対しているのは、新聞社や人権問題の活動家達などだけという。(米ニューヨーク発:ジャーナリスト 田中秀憲)
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