北斗七星

北斗七星 2009年1月26日付 Vol.1269

2009/01/26 15:38

週刊BCN 2009年01月26日vol.1269掲載

▼パレスチナ自治区ガザの境界線上にある小高い丘に、「ブルカ」を身に纏い険しい表情を浮かべる老女がすっくと立った。砲撃指令を待つイスラエル軍の戦車が並ぶ前にだ。左手にパレスチナの国旗、右手は真横に手を伸ばして軍を制する。「撃たないで!」の叫びが聞こえてくる、この「勇気」あるシーンをAP通信が写真で伝えた。

▼米国の第44代大統領に就任したバラク・オバマ氏。ミドルネームは「フセイン」で、父親は「ムスリム(イスラム教徒)」だ。ルーツを辿ればこの老女と同じ信仰・思想だったことになる。そして「奴隷制度」下で最も差別を被った黒人であり、いまの世界的な経済不況の震源地である超大国・アメリカの長。この人物に世界が「CHANGE」を待望しないわけがない。

▼世界は幾多の戦争を経験し、いまも数多の紛争が残る。こうした所業を「ペンの力」で終結させようとしたジャーナリストや国境を越えて医療活動に従事したボランティアなどが戦地で血を流し命を失った。残念なことに彼らの「勇気」でさえ、民族や宗教などの違いによる戦争を止める「特効薬」となることはできなかった。

▼オバマ大統領とて「特効薬」は持ち得ないだろう。彼が尊敬する公民権運動の指導者、キング牧師は「私には夢がある」「信仰があれば絶望の山から希望の石を切り出せる」と訴え、凶弾に倒れた。キング牧師が願った「人格で評価される国」、いや世界にすることこそが、同大統領が打てる「予防薬」だ。
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