旅の蜃気楼

400年先の日常に思いを馳せて

2010/07/22 15:38

週刊BCN 2010年07月19日vol.1342掲載

【伊吹山発】チェロの弦を張り替えた。弾いてみた。音の違いに驚いた。前に使っていた弦の音は、耳障りだった。そのせいなのか、いつの間にか練習と練習の間が開き始めた。個人レッスンを受けているチェロの先生も、「どうも音がこもるわね」と言い始めた。よし、近いうちに弦を買うぞ。そうだ、覚えやすい7月7日にしよう。七夕の日にチェロのレッスンを受けた。弦を持って、先生の家に向かった。そして弾いた。こんなに音が違うのだ。優しい音色が身体に浸透してくる。BCNの社員にバイオリンを弾く森英二君がいる。彼は最近、弦をガットに替えた。「いい音がしますよ」と自慢げだ。

▼ここからは山行の話に切り替わる。7月4日、岐阜の実家で法事があって、その足で伊吹山に登った。この山は関が原を見下ろす1377メートルの山だ。登り坂が4時間ほど続くので、山登りの訓練をするにはもってこいだ。今回は梅雨に入ったばかりの風雨の中で、びしょぬれ状態で頂上まで登った。伊吹山は前方に山がないので見晴らしがよい。登るほどに古戦場が眼下に広がる。登り詰めた頂上は平らだ。食堂を兼ねた山小屋が数軒ある。山の地形は昔も今もほとんど変わらないはずだ。その昔、この頂上で東西両軍の戦いぶりを観戦した武将もいたのではないか。残念なことに、今回の伊吹山はガスで真っ白だ。晴れた日には実に見事な光景が広がる。頂上から関が原を見て、右手に彦根から大津、左手には大垣から岐阜に続く。この狭い山間の中山道筋で、東西両軍が雌雄を決した。慶長5年9月15日、410年前のことだ。

▼山に登っていると、とても古い道を歩くことがある。道すがら、何となく感慨にふける自分がいる。さっき話題にしたチェロの誕生にしても、300年近く前のことだ。こうして歴史を振り返ると、関が原の戦いも通過点に過ぎない。400年先であっても、山好きな人はきっと、伊吹山をふーふー言いながら登っていることだろう。300年先の人もきっとチェロの音色を楽しんでいるに違いない。なんだか、昨日も今日も明日の生活もあまり変わりはないようだ。(BCN社長・奥田喜久男)

晴れた日の伊吹山はこんなにもやさしい表情を見せる
(写真提供:週刊BCN編集部・井上真希子)
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