【内神田発】「座右の銘を聞かせてください」。さて、困ったぞ。気のきいた座右の銘はあったかしら。思いあぐねていると、好きな言葉とか、大切にしている言葉がいくつか頭に浮かんでくる。大塚商会は昨年7月、創業50周年を迎えた。これを記念して、取引のある企業経営のトップに座右の銘を聞いて、自社のサイトに掲載している。
▼「大塚商会 座右の銘」で検索すると、瞬時に行き着く。『座右の銘 次代のあなたへ贈る言葉』。日本IBM・橋本孝之社長「平常心、自然体」、KDDI・田中孝司社長「思い」、サイボウズ・青野慶久社長「真剣」、トレンドマイクロ・大三川彰彦取締役「為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり」と続く。
▼それぞれに座右の銘と、いわれが記してある。いわれを読み進めると、なるほど、とうなずくことが多い。その“いわれ”については、本人への取材を通じてプロの書き手が文章をまとめている。実は私も取材を受けた一人だ。取材を受ける間に、本人が気づかない自分が、言葉として出てくるのには驚いた。それは母親の思い出をたずねられた時だ。
▼思い出すのに少し時間がかかった。何しろ、母親についての思い出を更新したのは50年前が最後だったからだ。記憶の奥まったところから探し出すうちに、「厳しくしつけられた」という思い出がよみがえり、当時の感情が走って、思わず背筋が伸びた。
▼大塚商会のサイトに掲載された43人、すべての皆さんの座右の銘を読んだ。共通しているのは、生きる過程で揺れる心の奥深くに鎮座する錘(おもり)のような存在、それが座右の銘であることだ。この企画のなかの一人に、ぜひ大塚商会の大塚裕司社長を加えていただきたいものだ。(BCN社長・奥田喜久男)

新進気鋭の書家、木下秀翠さんの手になる私の「座右の銘」。ありがたくオフィスに飾らせていただいています