BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『神山プロジェクト』

2014/06/26 15:27

週刊BCN 2014年06月23日vol.1535掲載

地域活性化の実験場

 徳島市からクルマで1時間ほど西に走ると、吉野川の支流、鮎喰川の両脇に集落が広がっている。急峻な山に囲まれ、かつては林業で栄えたこの神山町は、人口6000あまり。全国の多くの山村同様、少子高齢化と過疎化が進みつつあった。しかし、近年の人口社会動態をみると、2010年からは減少の度合いが弱まっている。これが、「神山プロジェクト」の成果の一つだ。

 本書は、徳島県神山町のNPO、グリーンバレーの活動を通して、地域活性化の一つの姿を生き生きと描き出している。1991年に国際交流から始まったグリーンバレーの活動は、国内外のアーティストを招いて、滞在期間中に作品をつくってもらうKAIR(Kamiyama Artist In Residence)へとつながり、さらに「アーティスト」を「職人」に変えて、神山町で職人仕事をする若者を募る活動へと結びつく。これが、さらに企業を呼び込むきっかけになった。

 神山町は、県の施策もあって、2005年には光ファイバーを全戸に敷設。こうした環境から、ITベンチャーが続々とサテライトオフィスを設けている。その嚆矢が、2010年に古民家を借りて「神山ラボ」を開設した名刺管理サービスのSansanだ。「新しい働き方を実践する」という寺田親弘社長の考えから、いまでは開発部隊だけでなく、営業部隊の一部も神山町に置く。

 記者として取材を続けてきた著者は、神山町を「クリエイティブを生む場であり、働き方の実験場であり、さらに人間再生の場でもある」と表現する。その場をつくり上げたのは、ほかならぬ住民たちだった。(叢虎)


『神山プロジェクト』
未来の働き方を実践する
篠原 匡 著
日経BP社 刊(1500円+税)
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