BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『日本の電機産業はなぜ凋落したのか』

2023/05/05 09:00

週刊BCN 2023年05月01日vol.1967掲載

電機業界の視点で「失敗から学ぶ」

 電機大手9社が平成の時代の30年間に、どのような変化に遭遇し、どこでつまずき、その原因がどのようことが考えられるのかをまとめた良書だ。業界関係者には耳が痛い、早く忘れたい話も多分に含まれるが、筆者は「失敗から学ぶ」ことこそ大切だと説く。自身はTDKに勤務し、父親はシャープの副社長まで務めた人物。電機業界の内側からの視点で、デジタル化に乗り遅れ、インターネットの波に乗れず、巨大ITプラットフォーマーに蹂躙された背景を探る。

 日立製作所や三菱電機などの重電系、ソニーやパナソニックなどの家電系、NECや富士通などの情報通信系と電機大手の出自はそれぞれに異なる。本書では主にPCやスマホ、GAFAに象徴されるデジタルプラットフォームの領域での勝敗を念頭に置く。東芝やシャープ、三洋電機のように行き詰まってしまった企業がある一方、社会インフラや金融、コンテンツ、電気設備、SIなどデジタルプラットフォーム以外の領域で活路を見いだしている企業もある点には留意しなければならない。

 ただ、1980年代のような世界を席巻する華々しさは失われ、裏方で支える役に退いた側面があるのは否めない。本書はこの「凋落」を知る一助になるはずだ。(寶)
 



『日本の電機産業はなぜ凋落したのか』
桂幹 著
集英社新書 刊 1034円(税込)
  • 1