中国に本社を置くソフトベンダーのキングソフトと、動画検索やゲームなどのウェブサービスを提供するACCESSPORT(アクセスポート)。両社とも代表取締役2名体制をとっており、そのトップを務めるのが、沈海寅氏と翁永飆氏の二人の若手社長だ。両氏は、1999年、渋谷を拠点とするIT関連企業のコミュニティ「ビットバレー」のメーリングリストで知り合い、05年に金山軟件有限公司の日本法人としてキングソフトを、翌年にはACCESSPORT(東京本社)を設立した。両社とも、人員30~40人程度のベンチャー企業でありながら、マイクロソフトなどの最大手をライバルに、事業を着実に拡大している。両氏に成功の秘訣を聞いた。(取材・文/ゼンフ ミシャ)

Q 社長が二人という特色のある体制のメリットは?

沈 海寅 代表取締役社長
しん・かいいん■1974年生まれ。93年に上海交通大学卒業後、エンジニアとして働く。98年に来日し、中堅SI会社にシステムエンジニアとして勤務。05年にキングソフト、06年にACCESSPORTを設立。08年から現職。
 「海外をみれば、例えばHPやYouTubeなど、社長が二人いる企業はそれほど珍しくない。企業にとって、事業方針の決定は非常に重要なことだ。方針を決めるときに、社長が二人いれば、イコールパートナーとして同じ目線で議論しながら、お互いを説得しなければならない。誤った方針を掲げてしまうリスクが少なくなる」

 「簡単にいえば、リスクは半減、パワーは倍増という大きなメリットがある」

Q キングソフトとACCESSPORTの事業の柱となっているのは?

 「両社とも中国での評価が高く、その市場を勝ち抜いた技術を日本に導入するのが事業の基本コンセプトだ。日本市場向けの製品を開発するにあたっては、低価格で提供するだけでなく、技術の中身、つまり商品力を重んじている。いくら値段が安くても、品質がよくないとユーザーには受け入れられない」

 「われわれのように、セキュリティソフトなど、市場の需要が高いものを商材にしている会社は、当然ながら大手企業のライバルが多い。大手との差異化のために、当社は大胆な発想を武器にして、『ダメでもともと。とりあえずやってみる』という戦略を採っている。また、スピードを非常に重視している。新しい製品やサービスを、いかに速く実現できるかが勝負だ」

Q お二人とも、ビジネスを通じて日本と中国のそれぞれの市場情勢をよく把握しておられる。両国の大きな違いは?

翁 永飆 代表取締役社長
おう・えいひょう■1969年生まれ。88年に高校卒業後、来日。96年、横浜国立大学電子情報工学研究科で修士号を取得。同年、伊藤忠商事に入社。05年にキングソフト、06年にACCESSPORTを設立。08年から現職。
 「日本では、ビジネスの立ち上げにあたって、まずリスクを考えるケースが多いだろう。しかし、これでは危機は回避できても、どうしてもスピードが遅くなることは避けられない。これに対して中国では、リスクなどをあまり気にせずに、とにかく製品をマーケットに投入して、それから次のステップを考える。日本よりアグレッシブなやり方だ」

 「われわれは、『日本と中国の間』の立ち位置でビジネスを展開している。展開の方法は日本で決めて、日本のローカル事情に合わせている。つまり、技術は本国、展開方法は日本というパターンだ。例えば、中国のあるウェブサービスを日本化するにあたって、サービスを日本のユーザーの好みに合わせたり、展開を日本の商習慣に合わせたりするなど、細かいところまで工夫している。キングソフトは多くの外資系企業とは異なり、本社からの独立性が強いことが成功の一因になっている」

Q 今後の目標は?

 「それぞれの会社で、事業分野のNo.1を目指している。具体的には、キングソフトのオフィスソフト『KINGSOFT Office』の販売シェアは確実に伸びていて、1位のマイクロソフトに迫っている。さらにユーザー層の拡大に向けて、パッケージ販売だけでなく、ウェブサービスとして展開することを検討している」

 「ソフトウェア市場の今後の動きは、『ソフトからサービスへ』というフレーズで表すことができる。ソフトウェアは“サービス化”、言い換えれば“無料化”していくに違いない。われわれは、ソフトのサービス化に向けて、収益モデルを模索していく必要がある。現時点では、まだ答えが出ていない。ソフトのサービス化が進むなかで、キングソフトはそれにどう対応するか、当社の立ち位置を定めなければならないと思っている」