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世界一、競争力があるテレビを作りたい──大連東芝テレビジョンを訪ねて

2011/01/20 18:45


経営の現地化も視野に、自分たちで考える工場に

 「今、この工場で一番やりたいのは、自分たちで考えて改善していく風土をつくること」と奈良工場長は語る。「改善提案のようなものが従業員から徐々に上がり始めているが、まだお仕着せの感がある。これをもう一歩、進めたい」。

 グループディスカッションをして結論を導き出すSGA(Small Group Activity)も実施している。例えば、「食堂のテーブルが汚れている。これをきれいにするにはどうすればいいのか」といった課題を与え、改善策と、改善策が効果が出ると思う理由を考えさせる。こうしたトレーニングによって、少しずつ自分たちで考え、解決していく機運が高まりつつあるようだ。

機械で自動装着できないチューナーなど、一部の部品は手で装着する

 「中国人と日本人の考え方の違いもみえて面白い。まとめるのがうまく、かたちを整えることは得意だが、やや表面的なのが中国人。日本人はかなり具体的に突っ込んで行くのはいいのだが、具体的過ぎる。そんな両者の差、ものの考え方の差のようなものがよくわかった」(奈良工場長)。

 こうした取り組みの一方で、10年の5月頃から中国南部を発端とてもちあがった労務問題は、6月の末に大連工場にも飛び火。日本でも報道された。幸い労働争議には発展せず、従業員の要求に対応することで収束した。

 「従業員には、『利益は上げなければならないから、すべての要求は聞けないが、できるところは聞いていく』と伝えた。交渉を通じて、結果的に組合ともいい関係ができ、従業員とコミュニケーションしやすい雰囲気ができあがった。全体のまとまりも出てきた」という。「以前から日本人用の食堂はやめたいと思っていたが、これを機に廃止した。そんなこともあって、風通しはずいぶんよくなった」と奈良工場長は振り返る。

 「フランクにものが言える環境づくりと、自ら考える社風をベースに、部品だけでなく、経営も現地化してきたい」と語る奈良工場長。これから1年程度で、工場の1-2名の中国人を役員クラスに引き上げ、さらに工場長まで中国人にすることで、名実ともに「中国の会社」にしていくという。

組み上がった基板は、製品に実装する前にさまざまな動作試験を行う

販売会社の設立で中国でのテレビ販売を本格化

 大連東芝テレビは、09年まで製造と販売の両面をカバーしていたが、10年9月、広東省恵洲市で東芝視頻産品(中国)有限公司(東芝ビジュアルプロダクツ(中国)社)が営業を開始。中国国内での東芝製テレビの販売・サービス部門を独立させた。パートナーは、中国でテレビのトップ3に入る家電メーカー大手のTCL集団。資本金は5000万人民元で、出資比率は東芝が51%、TCLが49%となっている。これまで大連東芝テレビが行ってきた営業活動は徐々に東芝ビジュアルプロダクツ(中国)社に移管し、中国向けテレビビジネスを本格化させる。

基板を実装後、正しく接続されているかを赤ペンでチェック

 大連東芝テレビは、中国沿岸部の一級・二級都市を中心に、これまで約1000店の販売店でテレビを販売してきた。これをベースに、今後はTCLの販売網とマーケティングノウハウも活用しながら、販売規模を拡大していく。2012年までには、内陸農村部にある小さな店舗も含め、10倍となる1万店の販売網の確立を目指す。「毎週、進捗を確認しながら進めている。うまくいく地域とうまくいかない地域はあるようだが、取扱店は着実に増えている」(奈良工場長)。

 中国国内向けの製品に関しては、自前の製造拠点だけではまかないきれないので、TCLからのODM調達を積極的に行い、中国向け商品供給体制を整える。そのほか、IPTVのような中国で特に進んでいる製品に関しても、TCLの製品を活用。TV用のネットサービスもTCLでは計画しており、こうした分野の国内向けの製品も取り込んでいく。

基板の実装が終わると、次は動作試験。鏡を活用し、裏面から画面表示を確認

 奈良工場長は「新興国市場を短期間で拡大させるのは、東芝だけでは難しい。現地企業と手を組みながら、製品を供給していくことが不可欠」という。そして、販売網を10倍に増やすことで「事業規模は現在の5倍程まで拡大する」と語った。

 一方、大連東芝テレビは、日系量販店が中国出店に動き始めている流れを受け、9月に定款を変更。これまでのテレビの製造・販売やその関連業務に、全東芝ブランドの製品の卸売などを加え、中国の東北地区を中心として中国向け販売の幹事会社的役割も担うことになった。

 東芝は10年4月、ASEAN市場向けの販売強化を目的に、シンガポールに「アジアヘッドクオーター」を設立。停電が多く、電波状態が不安定な地域特性を考慮して、バッテリとブースターを搭載した液晶テレビを発売した。こうした現地化をテコに、ASEAN地域での11年度のシェア20%を目指す。

 インドでも販売店を4000店舗に拡大し、13年度までにシェア10%を、さらに、アフリカ・中近東市場の拡大を目的に、エジプトで現地のエルアラビ社と合弁で液晶テレビの新工場を建設。11年度に15%のシェアを目指す。

音の動作試験も行う

 グローバル展開の再編を急速に進めている東芝のテレビ事業。各地での取り組みに共通しているのは、徹底した現地化と柔軟な生産体制だ。「部品が足りなくなれば、ODMベンダーと融通しあうこともある。今は日本向けが中心だが、状況が変われば、世界中、どの市場に向けたテレビでも作ることができる」(奈良工場長)という体制が、変化にすぐに対応できる柔軟さを物語っている。そして、「中国の人がつくり、中国の安い部品が使えるなら、ODMベンダーにコストで負ける理屈はない。世界一、競争力があるテレビを作りたい」という言葉に、グローバル市場で戦う東芝の強さの源をみた。(道越一郎)

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外部リンク

東芝=http://www.toshiba.co.jp/