米アップルコンピュータの創業者、スティーブ・ジョブズ氏は、ボストンで開催された「マックワールド・エキスポ」で基調講演を行い、同社がマイクロソフトと協力関係を結んだことを明らかにした。

昨年から提携を模索

　アップルは「オープンドック」などマイクロソフトに対抗する技術を廃止処分にし、マイクロソフト技術の普及促進を約束した。アップルは反マイクロソフト陣営の旗振り役だっただけに、今後業界に大きな影響を与えそうだ。

　米国の業界関係者の間では、今回の協力関係によるアップルにとっての最大の利点は、「マッキントッシュ」用にマイクロソフトが開発する「マイクロソフト・オフィス」のリリースが順調に行われることだとの見方が多い。

　マック用「オフィス」は800万人のユーザーが利用しており、アップルにとって最も重要なアプリケーションの1つだが、最近ではウィンドウズ用「オフィス」に比べ新バージョンのリリースが遅れ、ユーザーのマック離れが懸念されていた。

　講演後の記者会見でマイクロソフト幹部は「ウィンドウズ用オフィスと同じペースでマック用オフィスも新バージョンを順次リリースしていく」と強調、「オフィス」の順調なリリースがアップルにとって最大の関心事だったことを示唆した。

　こうしたことから米ハイテク調査会社データクエストのアナリスト、ジェームス・ステータン氏は「アップルはオフィス（の新バージョンの安定供給）を確保するため魂を売った」と評している。

　また両社は広範な相互ライセンス供与で合意。マイクロソフトは、クイックタイムや、ハイエンドのパブリッシング技術、3D技術などを取得。アップルは、DirectXや、ActiveX、ビデオ・ストリーム技術などの取得とともに、これらの技術の普及促進を約束した。データクエストのステータン氏は「マイクロソフトに有利な一方的な提携」と分析している。

　両社が協調路線に転換したことは、アップルとともにマイクロソフトに対抗してきた各企業にも大きな影響を与える見通しが強い。ActiveXと一部で競合するJavaを推進するサン・マイクロシステムズにとってアップルのActiveX支援は大きな痛手となりそう。

　アップルはまた、マイクロソフトの「インターネット・エクスプローラ」をマックの標準ブラウザとしてマックOSに標準添付する。ネットスケープ・コミュニケーションズのブラウザ「ナビゲーター」もユーザーの判断でインストール可能だが、シェアの低下は必至の状況。

　アップル幹部によると、マイクロソフトに対抗するためアップルが推進してきたオープンドック技術などは「優れた技術だが、標準になれない」として廃止を決定。代わりにOLEやアクティブXを推進するという。これらの技術でアップルを支援してきたソフトメーカーにとって、旗振り役がいなくなった格好だ。

　協力関係に入ったことにともない、マイクロソフトは議決権のないアップル株式1億5000万ドルを取得し、3年間保有することを約束した。関係者によると「目に見える形で協力の姿勢を見せてほしい」というジョブズ氏の出資要望にマイクロソフトのビル・ゲイツ会長が応じたものという。

　両社の関係者によると、協力関係構築に向けて昨年から両社幹部の間で話し合いが断続的に行われてきたが、アップルの前会長の更迭後はジョブズ氏がゲイツ会長に積極的に接触。１か月足らずで合意に導いたという。

　協力関係の発表を受けてマックワールドの会場では熱狂的マックファンの間でブーイングが起こったが、米国の株式市場は発表を好感、アップル株は発表直後に30％も値を上げた。

　一方、注目されたアップルの人事では、オラクルのエリソン会長が社外取締役に就任。ジョブズ氏自身もアドバイザーから取締役に就任した。このほか、インテュイットのウィリアム・キャンベル社長、IBMの元最高財務責任者のジェローム・ヨーク氏が取締役に就任した。

　マークラ、ハドソン、ゴールドスタインの３氏が取締役を退任したため、計6人の取締役で再スタートした。取締役は9人まで認められているため、現在選考中の最高経営責任者（CEO）のほか、教育分野の専門家と家庭用製品分野の専門家を取締役会に加えることも検討中という。

　マスコミなどでジョブズ氏の会長就任が取り沙汰されたが、新しいCEOが見つかるまで会長を指名しない方針に決定したという。アップルと互換機メーカーとの間でライセンス問題に関するいざこざが伝えられているが、ジョブズ氏は同問題には触れなかった。