米アップルコンピュータは10日、業績回復を目指した同社の新戦略の発表会を開催、ビルト・ツー・オーダー（BTO、カスタムメード）方式を採用したインターネット通信販売などを柱とする新戦略を発表した。

　同社は、製品、流通、製造技術の3つの分野での新しい試みを発表。製品面では、「パワーPC」の第3世代を意味する「パワーPC G3（ジェネレーション3）」を搭載したパソコン3機種を発表した。

　「パワーPC G3」は「パワーPC 750」の名称でIBMとモトローラがマーケティングしていた最新鋭のマイクロプロセッサー。インテルの最新鋭ペンティアム｢/300と比較した場合、面積が約3分の1、消費電力が約7分の1と、携帯機器にも利用できるのが特徴。ベンチマーク比較ではペンティアムに比べ最高44％速いという結果が出ているという。

　発表された「パワーPC G3」搭載パソコンは、「パワーマッキントッシュG3」シリーズとして「デスクトップ」（1999ドル）、「ミニタワー」（2499ドル）、「パワーブック」（5699ドル）の3種。

　流通面では、インターネット上の同社のサイト上に「アップルショップ」と呼ばれる通信販売ページを開設。本格的なインターネット通販を開始した。

　同ページでは同社の全製品を通常価格で注文できる。特に「パワーマッキントッシュG3」のデスクトップとミニタワーに関しては、300通りの組み合わせのコンフィギュレーションやオプション部品を選択できる。アップルショップは当面は北米ユーザーを対象に運営。来年春には日本のユーザーが日本円で買い物ができるようになるという。

　今回の発表で最も斬新な試みは、アップルショップからコンフィギュレーションを自由に指定できる、いわゆるBTO方式の採用。この方法を実現するために製造面で大幅な改良が行われた。詳細は企業秘密だが、品質管理や検査方法などの面で改革が行われたもよう。パワーマックG3もネジの要らないはめ込み式部品を多用するなどの工夫が施されている。同社によると、パワーマックG3はアップルショップ上で注文を受けてから数日以内にユーザーに配達できるという。

　BTO方式は当面の間、インターネット通販に限定。今後その成果をモニターし来年初めをめどにリセラー（販売会社）を通じたBTOに乗り出すことも検討中。リセラーに組み立てを受け持たせるチャネルアセンブリーは行わない方針という。

　アップルは米国内のリセラーを5社から2社に削減し、大手小売店コンプUSA内にアップルコーナーを設け専属販売員を置くなど、販売、流通面の改革を進めているが、リセラー、小売店、インターネット通販への製品供給は公平に行う考え。

ジョブズ氏　打倒デルを宣言

　アップルの戦略発表会で司会した創業者のスティーブ・ジョブズ会長は、スクリーンに写ったデルコンピュータのマイケル・デル会長の写真に赤で印をつけて見えなくするなど、デル会長への激しい対抗意識を見せつけた。

　ジョブズ会長とデル会長の確執は米の業界紙などで報じられているが、発表会でもジョブズ会長は「デルを倒すために徹底的に攻撃する」と堂々と言ってのけるなど、いがみあいの深刻さをにおわせた。

　両会長がもめ出したのは、最初にデル会長が報道関係者に語った一言がきっかけ。「あなたならどのようなアップル再建策を採りますか」との質問にデル会長は「わたしならアップルをつぶして、資金を株主に返す」と答えた。

　この発言に気を悪くしたジョブズ会長が、釈明を求めてデル会長に連絡を取ったが「謝罪の機会を与えても返答がなかった」（アップル幹部）という。

意気込みの割には内容は肩透かしの新戦略

　アップルの新戦略発表会には報道陣、証券アナリストなど数百人が詰めかけ、同社の注目度の高さを見せつけた。会場は、1984年にマッキントッシュを発表したのと同じディアンザ大学の講堂。「今回は大発表が行われる」とスティーブ・ジョブズ会長自身が事前に語っていたのとは裏腹に、内容は肩透かしとも呼べるものだった。

　発表会後の記者会見にはジョブズ氏は出席せず、技術と流通の担当者が発表の内容を詳しく説明するだけに終わった。冒頭から「最高経営責任者（CEO）はジョブズ氏が確定したのか」という質問が飛び出したが、これに対しては同社幹部は「スティープは暫定CEOで、わが社は正式CEOを年内に決めるための選定作業中」という、これまでと同じ紋切り型の答えを繰り返すだけ。

　ジョブズ氏のカリスマ性は相変わらずで、会見に先立つ発表会では舞台に同氏が登場すると同社従業員の間から熱狂的な拍手が沸き起こった。同氏は「わが社を栄光に導くチームに拍手をどうぞ」と開発チームを起立させて紹介。従業員の士気を高めるための気配りをした。

　会見後、記者の間から「これだけカリスマ性に富んでいて新戦略も決まっているのであれば、新しいCEOは不要だ」とか「ジョブズ氏と２人３脚で同社を運営できる経営者など見つかるはずがない」などの声が聞かれた。