先日、マイクロソフトの眞柄泰利取締役を取材した時、次のような指摘を受けた。「総務省が発表している全国消費実態調査を見ると、年収400万円未満の家庭におけるパソコン普及率が低いことが目立つ。パソコンの売れ行きが鈍っていることを改善するための施策として、デジタルデバイド解消を目的にパソコン普及率の低い家庭に政府が補助金を出すべき、といったアピールをもっと行ってもよいのではないか」社に戻ってデータを確認すると、確かに2000年7月に総務省が発表した99年の全国消費実態調査では、パソコンの所有率は年収が高額な人ほど高い。年収390万円以下の人と、1018万円以上の人との格差は実に4.1倍となっている。店頭でのパソコンの売れ行きが鈍った要因として、家庭への普及率が高まってきたことがあげられる。しかし総務省のデータを見ると、すべての世帯に行き渡ったわけではないことが分かる。年齢別に見ても、40歳代が最も所有率が高いという結果になっており、視点を変えるとパソコン市場の拡大余地はまだまだあるといえる。

　眞柄取締役は、政府のアプローチによって世帯普及率が上がった例としてスウェーデンをあげる。「スウェーデンのパソコン普及率は、米国を超えて世界トップになったといわれている。この背景には、政府がパソコン購入に対する税制援助を行ったことが指摘できる。この税制援助により、スウェーデンのブルーカラー層へのパソコン普及が一気に高まった」このスウェーデンの実績などを考慮すれば、眞柄取締役の指摘通り、パソコン普及率が低い所得者層に対し「税制などの優遇措置を設けるべき」という進言は、パソコン業界として積極的に行っていってよいのではないか。パソコン普及率が低い層がパソコンを購入するようになれば、販売店をはじめ、メーカーなどパソコン産業に大きなメリットとなる。ユーザーにとっても、パソコン所有の有無によるデジタルデバイドの解消につながる。

　デジタルデバイドという点では、日本よりも貧富の差が激しい米国の方が深刻だ。パソコン普及率と所得が関連性をもっており、パソコンをもたない層にデジタルデバイドが生まれていることが大きな問題点として指摘されている。日本では、IT講習というデジタルデバイド解消策が提案されている。これをもう一歩進め、家庭へのパソコン普及を政策面から後押しし、インターネットに親しむ機会を増やしていくことは誰にとってもマイナスにはならないはずだ。パソコン業界は、パソコンを購入したらどのようなメリットがあるのかをユーザーにはっきりと提示していかなければならない。電子メールやインターネットを利用することで何ができるのか。具体的に提案する義務があるといえるだろう。パソコンをもつメリットの1つは、仕事のなかでパソコンとインターネットが電話と同様に重要なインフラとなっていることだ。さらに、家庭の中でもパソコンとインターネットを利用することでどんなメリットがあるのか。具体的な提示を行っていけば、「自分はパソコンをもっていないけれど、ぜひ、手に入れたい」と考える人が増えてくるはずだ。

　店頭での商品展示も、従来のようなテクノロジー中心ではなく、子供をもつ家庭にとって便利なツールを紹介してみてはどうだろう。筆者が個人的に大いに便利さを感じているのが、NTTのインターネットタウンページである。このサイトにアクセスすれば、主要な企業の住所や電話番号だけでなく、地図情報までを入手することができる。この地図は仕事で利用するだけでなく、家庭で利用しても利便性が高いはずだ。パソコンショップに地図ソフトが置いてあるのを見て、自分にどれだけ有用なのかは分かりにくいが、インターネットと地図ソフトを連動すれば、生活はもっと便利になる――。こんなアピールの仕方をすれば、これまでパソコンを必要と感じていなかった人も見る目が変わってくるのではないか。そう考えるのだが、いかがだろう。（三浦優子●取材・文）