中国では約90%（944億円）、台湾では45%（259億円）、韓国では25%（130億円）。

　この数字は、それぞれの国のレコード/CD市場に占める海賊版の比率である。統計をまとめた海賊版対策連絡協議会では、ビデオやゲームソフト、DVDなども中国、台湾、韓国では極端な安値で売られている、と報告している。

　IT戦略本部が5月9日に公開した「e-Japan重点計画」の改定案（6月に正式決定）では、改定の目玉1つとして、ネット上の著作物の不正コピー防止システムの開発を掲げている。並行して、著作権者が適切な報酬を得られる契約方法のモデルなども作成する予定だ。

　先の報告は、あくまでパッケージメディアを介した不正コピーの被害額である。このような状況がインターネットを介在した場合、その被害額は莫大な額になることは簡単に予見できる。当然、著作権者にとっては悪い方向に向かう。

　ネット上で不正コピーされたコンテンツはデジタルデータの複製であり、コンテンツそのものの品質はまったく変化しない。

　パッケージメディアであれば、メディアの劣化によって品質が著しく損なわれる場合もある。また、パッケージそのものを完璧にコピーすることもコストがかさむことから多くの場合行われず、文字通り低品質の「海賊版」としての名称も成立する。

　だが、デジタルデータでは、海賊版どころか、本物と何ら変わらない。ブロードバンドインターネットで、ドラマやバラエティなどのテレビ番組や映画、音楽が配信されるようになった場合、不正コピー対策が整備されていなければ、健全な市場の育成はおぼつかない。

　そして、このことは日本市場だけを視野に入れていれば良いのではなく、世界市場を睨まなければならない重要な問題だ。

　仮に不正コピー防止システムが普及したとして、果たしてデジタルコンテンツの違法コピーを摘発するBSA（ビジネス・ソフトウェア・アライアンス）によると、事態はそれほど単純ではないという。

　BSAは、「コピープロテクションや電子透かしといった不正コピーを防ぐ技術の開発と普及が急務なのは確か。しかし、違法コピーの技術も常に進歩しており、イタチごっこの状態だ。これは今後とも変わるとは思えない」と、厳しい認識を示している。

　コンピュータソフトウェア著作権協会（ACCS）でも、海外での海賊版被害には頭を悩ませており、技術開発などの対処療法と並行しながら、著作権保護の意識を「環境」として、子供の頃から浸透させることが重要だとの認識を示している。

　海賊版被害については、日米のDVDプレーヤー関連6社が中国音響家電メーカーに特許料の支払いを求めた事件がある。支払い額は日本企業に対してだけでも290億円にのぼる。

　インターネット上でデジタルコンテンツが流通する時代は、もうすでに来ている。アニメやゲームソフトなど、日本が世界市場で強い競争力をもつ分野のコンテンツも、すでにインターネットで流通し始めている。

　今後、インターネットによるデジタルコンテンツ市場が活性化するに従い、中国企業のDVDプレーヤーを例に引くまでもなく、不正コピーによる被害は拡大していくと予想される。

　BSAが指摘するように、技術面でのイタチごっこが繰り返される危険性は大いにある。日本が強い国際競争力をもつこの分野を保護することは、e-Japan重点計画の成否の一端を担うといっても過言ではないだろう。

　IT戦略本部では、不正コピー防止システムの開発という技術面での対処療法と同時に、国内だけでなく、世界各国との協調のもと、著作権保護意識の育成も積極的に行っていく必要がある。

　実際、海賊版対策連絡協議会では、アジア各国で制度の普及、啓発を目的にしたシンポジウムを開催しているほか、中国や韓国との政策協議の実施、取り締まりの連携強化などを求めて活動にあたっているという。日本政府も本腰を入れなければならない。