NECがついに半導体事業の分社化を決断した。ウエハーの大型化、加工技術のさらなる微細化により、昨今の半導体投資は巨額化する一方にある。最先端ラインを新たに導入する場合、1000億円単位の費用がかかる。需要の波に乗れば、こうした投資に見合うだけの見返りが期待できるが、タイミングを誤れば巨額の損失計上を余儀なくされる。こうしたハイリスク・ハイリターンの事業を本体に抱えるのは、もはや限界との判断があったようだ。

　今年11月に全額出資の新会社「NEC半導体」（仮称）を設立。システムLSI、個別半導体に加え、すでに昨年10月に分社化した化合物デバイス子会社「NEC化合物デバイス」を統合する。社員は半導体事業の社内カンパニー「NECエレクトロンデバイス」からの移行により、約2万5000人規模となる見込み。売上規模は約7000億円となる。ちなみに、99年末に日立製作所と設立したDRAM合弁「エルピーダメモリ」は、引き続きNEC本体が管轄する。今回、大胆な分社化に踏み切る理由について西垣浩司社長は、次のように説明する。

　「半導体事業は社内カンパニー制という中途半端な形では不十分。資金調達も含め、独立体制に移行した方が良いと判断した」「このまま社内カンパニーのままにしておけば、ほかのカンパニーに依存してしまい、甘えが残る可能性がある」つまり、必要な投資資金は親に頼らず自ら調達してこい、というわけだ。設立当初は、NECが全株式を保有するが、「できるだけ早い時期に株式公開を果たし、公開後は70％程度の保有率にする」（西垣社長）方針。

　この3月、システムLSI事業の統合を発表した日立と三菱電機が、1年後をめどに合弁を設立予定であるのに対し、NECの場合あくまで子会社として主導権を握り、「人事も何らかの関係を維持し、将来も本体との相乗効果を追求する」（同）戦略をとる。株式公開後、30％程度を占めることになる株主には「一般投資家を予定」（同）しており、ほかの半導体メーカーの出資を受け入れる考えはないという。半導体事業の分社化後、NEC本体の経営課題は、残る「NECソリューションズ」、「NECネットワークス」の2カンパニーをいかに伸ばせるかに焦点が移る。せっかく半導体事業を切り離したのに、残る2カンパニーの収益悪化が露呈するのでは意味がない。

　NECの02年3月期の連結業績は、売上高が前期比5.7％減の5兆1010億円、営業損益が555億円の赤字（前期は1851億円の黒字）だった。このうちNECエレクトロンデバイスは売上高が同31.4％減の8428億円、営業損益が1481億円の赤字（同682億円の黒字）と全体の足を大きく引っ張ったのは確か。だが、残る2カンパニーも決して好調だったわけでない。NECソリューションズの業績は、売上高が前期比0.9％減の2兆2090億円、営業利益が同10.3％減の753億円。NECネットワークスは、売上高は同6.7％増の1兆9571億円と伸びたものの、営業利益は同35.7％減の534億円にとどまった。

　今回の事業再編後、NECではソリューションズとネットワークスの両事業領域を「IT・ネットワーク統合ソリューション」として位置づけ、「オープン環境でのミッションクリティカルなシステムのソリューション提供」のコンセプトのもと、2カンパニー間の連携を強化していく方針。具体的には、①ミドルウェアなどのソフトの共同開発やハードの融合・統合、②ソリューション体系の統合――など、両カンパニーの力を結集し、融合を進める。

　西垣社長は99年の社長就任来、社内カンパニー制を軸にした構造改革を推進してきたが、「従来の経営改革のスピード、内容では不十分」とし、今回を「経営改革の第2フェーズ」と捉えている。半導体という装置産業部門を切り離し“身軽”になれるはずのNEC本体だが、これは逆に、業績不振の言い訳を今後は半導体事業のせいにできないことを意味する。パソコン、携帯電話などの需要低迷が続くなか、今回の再編で本体の収益を急回復できなければ、西垣社長の進退問題が浮上するのは必至。その意味で、西垣社長は自ら退路を断ったといえる。（佐相彰彦●取材／文）