ネット家電の中核になるか

　プラズマおよび液晶を使った薄型テレビ市場が、いよいよ本格的に立ち上がりそうな気配である。8月21日に松下電器産業が開催した薄型テレビ「VIERA（ビエラ）」の発表案内には、「テレビ50年史にふさわしい新製品」との文句が踊っていた。実際の発表でも、2002年時点では全世界のテレビ市場1億3000万台のうち、薄型テレビが占める割合はわずかに1・4％に過ぎないものの、05年時点では1億3800万台のうち10％を薄型が占めると予測する。

　国内でも、02年の921万台中、市場占有率で10％の薄型テレビ市場が、05年には932万台中54％と実に過半数を占めると予測し、「当社は05年時点で薄型テレビでグローバルナンバーワンを目指す。テレビ事業の売上高7000億円のうち30％が薄型テレビとなる」（大坪文雄専務取締役）と宣言。松下が薄型テレビという新しい商材に、本気で力を入れていることが伝わってきた。

　ソニーやシャープも薄型テレビに対しては並々ならぬ注力ぶりだ。家電メーカーが薄型テレビに力を入れるのは、地上波がデジタル化され、テレビの買い替え需要が激増する時にはブラウン管ではなく薄型テレビに切り替えることで、単価を上げ、利益率の高いビジネスへと転換しようとしているからだろう。地上波デジタルの登場を、単なるテレビの買い替え需要増大にとどまらない、付加価値の高いビジネスにしようとするメーカー側の意図が見える。

　IT業界にとっても、薄型テレビは注目商材だ。ホームサーバーとともに、家庭における「ネット家電」の中核製品になることは間違いないだろう。しかし、現状のままでは、そこに至るまでの道程が浮かんでこない。これまでテレビとインターネットをつなげる商品がいくつか登場してきた。しかし、大きな成功を収めたものはまだない。その原因として、「パソコンは画面との距離が数十センチであるのに対し、テレビは数メートル離れて見るもので、パソコンの中で育ったインターネットをテレビで見るのは馴染まない」という指摘がある。

　確かに、メールのような個人で見るものは、テレビのように「みんなで観る」画面はそぐわない。単にテレビが薄型になった、ネットにつながるようになっただけでは、利用者にメリットがあるわけではない。もちろん、新しい可能性も生まれている。ブロードバンド放送のように、テレビと接続して楽しむコンテンツも登場し、地上波もデジタルになることでプラス影響もあるだろう。だが、それだけでブロードバンドにテレビを接続する需要が生まれるだろうか。もっと決定的なソリューションが必要なのではないか。

　もっとも、新しい用途とは、メーカー側から生まれるのではないかもしれない。最近のヒット商品の傾向として、メーカーの思惑を飛び越えた使い方をされている商品が人気を集めている面は否定できない。例えばデジタルカメラは、撮影した画像の品質の良し悪し以上に、撮影することが楽しいという面が支持された。カメラを開発しているメーカーが持っていた「この程度の画質ではユーザーは満足しない」という先入観が当てはまらなかったそうだ。薄型テレビも、メーカーの思惑を越えたところで、ネット家電として家庭で定着することになるのかもしれない。　三浦優子●取材／文