プリンタのビジネスモデル揺るがす

　公正取引委員会は、レーザービームプリンタ（LBP）用トナーの販売で、キヤノンが独占禁止法に違反したとの疑いで立ち入り調査を行った。これに対して、関係各社はその成り行きを固唾を飲んで見守っている。プリンタ業界や複写機業界は、「消耗品によって収益を確保する」というビジネスモデルを確立、不況に強い企業体質を作り上げてきた。今回の公取委調査は、そのビジネスモデルを根底から揺るがしかねない問題をはらんでいるだけに、事は簡単ではない。

　公取委調査の目的は、キヤノンは純正のトナーカートリッジしか使えないように工夫してきたが、この行為が他のカートリッジ販売業者の業務妨害に当たると見ているためとされる。この場合の他の販売業者というのは、ノンブランド（NB）業者を指すのであろう。「トナー」という言葉で検索をかけてみたら、ｇｏｏで9万1294件、グーグルでは実に18万4000件がヒットした。ざっと見たが、大半はトナーカートリッジの販売に関する会社である。まさかこれら販売業者の全てが食べていける世界とは思えないが「NBトナー」が予想以上の人気ビジネスになっていることは確かなようだ。

　複写機やプリンタがパソコンやテレビと異なるところは、「必ず消耗品が売れる」という点である。LBPではトナー、インクジェットプリンタではインクがなくなれば補充する。こうした消耗品は、単価は安くても積もり積もれば莫大な額になる。しかも、本体が稼働している限り、周期的に発生する需要である。ストックビジネスのうまみを満喫してきたといえるが、うまみが多いとなれば、参入企業が増えるのは当然。米国で「海賊版トナーの台頭」が話題になったのは、遥か昔のこと。ブランドメーカーは「寄生虫ビジネス」と呼んで、排除しようとし続けてきたが、価格の安さ、NBトナーも性能向上で地位を保った。日本でも同様に市民権を確立しつつある、というのが現状なのであろう。

　純正メーカーは、「プリンタエンジンの中で、トナーの持つ役割は極めて重く、莫大な開発投資を行っている」と口を揃える。印字のきれいさ、エンジンの寿命、あらゆる側面に絡んでくるのがトナーだというのである。そのエンジンの性能を左右するトナーに、横から第三者が割り込んできて利益を吸い取っていく、というのは許せる行為ではないという発想もわかる。しかし、独禁法はそうした発想を許さなくなっているように見える。インフラを作り上げた当事者であっても、そのインフラの上で第三者がビジネスを展開するのを妨げてはならない、という姿勢だ。

　ユーザーの視点に立つと、「安くて、しかも安心して使用できる製品」であればそれに越したことはない。問題は「安心できる」かどうかだが、そうした評価を固めつつあるNBベンダーも生まれている。ただし、悪質な業者も増えているという話も聞こえてくる。たとえば、カートリッジはブランドメーカーの純正品を使用、中身のトナーだけを入れ替えて販売しているというようなケースだ。NB品とわかって購入するユーザーは、それなりにリスクを犯す覚悟はできているのだろうが、純正品のように思わせて売るというのは詐欺行為である。悪質業者は徹底的に排除しなければならないが、まっとうな業者とは、純正メーカーといえども結局、価格で戦うしかない、それが現実であろう。 石井成樹●取材／文